知り合いの中国人キュレーター、ファン・ブオイから招待状が来た。ウージェンという町で初めて展覧会を開催(2016年3月~)するから是非見に来てくれと言うのだ。スケジュールがタイトだが、1泊2日で行ってみることにした。
行ってみて驚いた。すごくいいのである。まず町が素晴らしい。昔の木造の町並みが丸ごと残っている。この旧市街には、コンクリートの近代建築は一つもない。そして町の中心を川が流れ、町はこの川に向かって開いて作られている。だからこの町は京都とヴェニスが合体したような佇まいなのだ。きっととっくに有名なのだが私が知らなかっただけなのだろう。しかし観光客には外人が少ないところを見ると、国際的にはまだまだ知られていないのかもしれない。
実を言うとこの町は、すべて一つの会社が運営していて、一軒ずつのお店の店員もこの会社の従業員でもある。ということは、ある意味で町全体がユニバーサルスタジオと同じ構造になっているのだといえるだろう。しかし早いうちに町全体を残そうと決断し、整備したのは慧眼である。
さてそんな町の外れにあった繊維工場が展覧会のメイン会場であった。改築、整備は、余計な装飾を加えず、ミニマルですっきりしている。いい趣味である。そしてそこに一室ずつかなり大がかりな映像やインスタレーションが設置してある。特にマオ・トンチャン(Mao Tongqiang)の鎌を並べた大規模なインスタレーションが注目を浴びた。またインシューゼン(Yin Xuzhen)のピンクのテントは中に人が入れる作品だ。ソンドン(Song Dong )の鏡を使ったゆがんだ部屋には、延々と続く歩道がイリュージョンで作り出されていて、興味深い。
町の中にもパブリックアートが点在してあり、それらもスケールが大きく見応えがある。たとえば、リュウ・ジャンファのセメントを固めて造られた彫刻の棚は広場の空間を横断して、壮観である。チェンジーガン(Chen Zhiguang)の鉄で作った蟻の集団は不気味であった。
オープニングの夜は、町の中の細い商店街の道の中央にテーブルを並べ、およそ300メートルくらいの長さの道の上でのバンケットとなった。これも趣向を凝らしていて面白い。
翌日、町の入り口付近にできている、ムーシン美術館を見せてもらった。この美術館の建築も全くミニマルなモダニズム建築(OLI Architecture設計)で趣味がいい。ムーシンは1927年にウージェンに生まれた作家であり画家である。中国文学の最も正当な継承者とも見なされているようだが、文化大革命で彼の初期の本は、抹殺された。美術館では彼の書画を所蔵しているが、私が訪問したときにはニーチェと比較する展示であった。
この展覧会は、開幕翌日、「中国で開催された最良の展覧会」という新聞評が出たくらいで、2年後に第二回展を開催し、ビエンナーレとなることが決定した。もう一度戻ってみてみたい。
(森美術館館長)