転機となったチュニジアへの旅
神話世界のユニコーンやフェンリル(狼神)がせめぎ合い、勢いある筆致で染まる群青に混沌と希望が滲みとなって織り重なる――。改組 新 第3回日展、第1科日本画の特選となった《善悪の交錯》は、圧倒的な迫力で観る者に挑んでくる。
画家というよりも「スポーツマン」という精悍な風情である。そのはず、高校時代は剣道に熱中しインターハイにも出場した。そこから美術への大転身に周囲は驚き反対したが、決意は固く、揺るがなかった。2004年に武蔵野美術大学造形学部日本画学科に進学し、日々刻々美術に打ち込んだ。大学3年で日展に初出品で初入選。創画会に所属する教授の指導も受けていたが、日展が最も自分に合うと感じていた。入選を重ね、制作を続けるうちに、モチーフは人物から、動物の凄味を表した《生との対話》シリーズ、人との関係性を動物の姿に重ねた《間合い》シリーズへと発展していく。
大きな転機となったのが2015年春チュニジアへの旅だった。居心地がよく、出会う人々の人間臭さ、生きることへのひたむきさに魅了された。しかし3月18日、「バルド国立博物館襲撃事件」が起きる。武装した男2人が観光客を襲撃し、22名の犠牲が出た。その中には日本人も含まれていた。事件の直前に同館を訪れていた谷川にとって、人々の憎しみが生み出す争いの衝撃はなんと大きかったことか。それまでの価値観が揺るがされた。一方で、チュニジアという国へのネガティブな情報で溢れるようになったメディアに対する違和感、不信感もつのるばかりであった。「物事は片側から見たことだけが真実ではない」。これが現在につながる画家のテーマとなった。
日展で2度目の特選を得て、若手日本画家の中でその存在感は増しつつある。現在は善と悪のイメージが入り混じり一体となるテーマに取り組んでいるが「絵とは自ずと変わっていくもの」と、今に囚われることなく、これからも様々なものに触発されながら制作を続けていきたいと語る。変化を恐れないその視線の先には、絵画の可能性が果てしなく広がっている。
(取材・文:工藤菜乃)
谷川 将樹(Masaki Tanikawa)
1984年鳥取県生まれ。2010年武蔵野美術大学大学院造形研究科修士課程美術専攻日本画コース修了。2006年に日展初入選し、14年・16年に特選。現在は日展会友。その他、第19回臥龍桜日本画大賞展奨励賞、公益財団法人エネルギア文化・スポーツ財団エネルギア美術賞など。2017年4月に渺渺展―小品展―(会場:大阪あべのハルカス近鉄本店ウイング館8階アート館ほか)に出品予定。
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