[画材考] 画家 田中正「ボールペンと色鉛筆たち」

2017年02月20日 10:00 カテゴリ:コラム

 

 

私は、堅い堅いお役人、仕事に個性は出せません。

ご主人のなされるままに従うことしかできません。

失敗は許されません。

そして私は感情の起伏を出すことを禁止されています。

死ぬまで巾の決まった線を出し続けることで、私の一生は終わります。

ご主人は光り輝く紙面に、私のような無機質な線で描くのが好きらしく、いまだ私と離れる気配がありません。

でも今現在、取りかかっている作品は線描で終わるか、輝く色彩の世界に移るか、悩んでいる様子です。

「オヤッ…」右手が色鉛筆の方に移りました。どうやら私の仕事はここまでのようです。

それにしても、色鉛筆は光の屈折分だけ数が存在するのでしょうか?

本当にたくさんの色が揃っています。

それでも、ご主人の好みは決まっていて、まったく出番のない色もいます。

ですから、そんなにたくさん揃えることもないのでは?と思いますが、どうやらご主人は、色がたくさん揃っていないと不安になるらしいのです。

私達は削られ削られ、そのたびに新しい顔を出しますが、芯が柔らかいので寿命が短いのです。

ご主人の力加減次第で体の一部分は残りますが、ペンのように完全なベタというわけにはいきません。

だから画用紙の白が網目のように透けるのです。

ご主人は仕上げが近くなると、華やかなパレードの様に私達を上下左右交差して、奥行きが出るまで動かし続けるのです。

「オヤッ…」どうやらご主人様は眠たそうだ。

私達もそろそろ床に就けそうです。

「オヤスミナサイ」。

 

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田中 正 (たなか・ただし)

 

1953年群馬県前橋市生まれ。10代から油絵を描き地元のグループ展などで発表。建築塗装業に従事しつつ、制作を続ける。2006年よりボールペン、色鉛筆を主な画材とする。国際応募展「第1回アートオリンピア2015」最高賞受賞。

 

2月3日(金)~28日(日)「前橋の美術2017 ~多様な美との対話~」(アーツ前橋)出品。

 

 

 

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