[フェイス21世紀]:幸田 千依〈画家〉

2017年03月07日 10:22 カテゴリ:コラム

 

“自転車操業”の旅路で

 

京浜島の鉄工所を改装したシェアアトリエ「BUCKLE KOBO」にて(2月1日撮影)

 

自宅から、自転車で片道40分。海沿いの工業地帯を走って、東京・京浜島の共同アトリエに2カ月間通った。その時みた景色をもとに、夕方のあたたかな情景を多視点的に構築し、上野の森美術館の「VOCA展2017」(3月11日~30日)で大賞に輝いた。

 

幸田は固定のアトリエを持たない。全国各地を訪れ、その土地で描く生活を7年以上続けている。きっかけは美大卒業後、別府で開催された国際芸術祭に参加し、様々な作家と古いアパートで共同生活したこと。「暮らしと制作がすぐ傍にある。都会のギャラリーで発表するのとはまた異なる、自分に合っていた制作スタイルでした」。

 

それから先はまるで「自転車操業」と明るく笑う。各地を転々とし、時には2週間の短期で滞在制作することもあった。2015年には大原美術館のレジデンスプログラム「ARKO」に参加。長年題材としてきたプールの作品の集大成を完成させた。

 

「ARKO2015」で制作した、15号のキャンバス20枚から成る大作《絵と眼を合(逢)わす》2015年 油彩、キャンバス 290.8×455.0cm 大原美術館蔵

 

昨年、海沿いの町を見渡す風景を描き始めた。つなぎ美術館の招聘で熊本県津奈木町を訪れ、3カ月間暮らした中で出会った題材だ。見上げる視点と見下ろす視点が混在するのは「ものを様々な方向からよく見て知りたい」から。以前のプールの作品は俯瞰した「神の視点」で描いていたが、今は「自分が立った場所からの視点」に変わった。

 

絵の構成や、批評性を感じさせる作品タイトルは、一人で自転車に乗っている時に閃くことが多い。「制作からも生活からも離れた、一番思考が冴える瞬間。移動中の道のりこそが実は大切なのかもしれない、と最近思うようになりました」。

 

VOCA賞受賞後、全国各地から電話があった。これまでの滞在制作でお世話になった人々からだ。絵描きは時に、地域の潤滑油にもなるという。様々な出会いと、ふと一人で考える瞬間。その両輪で旅路を進み、また新たな視点を獲得していく。

(取材:岩本知弓)

 

VOCA賞受賞作《二つの眼を主語にして》291.0×227.3cm アクリル、油彩、カンヴァス

 

受賞作のヒントとなった京浜島の海。自転車に乗りながら眺めた景色をもとに、架空の風景を生み出した

 

制作中の癒しとなった地域猫と。「いても生活の足しにはならないけれど、いなくなると少し寂しい。地域の人々にとって、画家も猫のような存在かもしれません」

 

「BUCKLE KOBO」の2階部分。寺田倉庫が手掛けており、様々なアーティストが活用している

 

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幸田 千依 (Koda Chie)

 

1983年東京都生まれ。小学生4年生から高校卒業まで長崎県で育つ。多摩美術大学絵画学科油画専攻卒業後、宮城、横浜の寿町、鹿児島、さらに台北など、各地のアートプロジェクトやレジデンスに参加。今年、若手作家の登竜門として24年目を迎える「VOCA展2017」で、大賞のVOCA賞を受賞。展覧会は3月11日(土)~30日(木)にかけて上野の森美術館で開催される。

 

 

 

【関連リンク】幸田千依HP VOCA展2017

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