[フェイス21世紀]:大石 雪野〈彫刻家〉

2017年03月31日 09:31 カテゴリ:コラム

 

眼差しに映る世界を――

 

 

2016年5月、銀座のギャラリーせいほうで初個展を開いた。ぐいと引き伸ばされ、渦のように首が捩じれたトナカイ。小洒落た服に身を包んだ若者たちの顔は、あるものは鉱石のように結晶化し、あるものはどろりと溶け出し足元に溜まっている。テラコッタや樹脂を素材に、人と動物のイメージが等しく歪められ渾然一体となった空間は、ユニークにして何か超常的な力を感じさせた。

 

3月末に開催する今回の個展では一転、木彫を発表する。『山月記』や東北の民間伝承である『おしら様伝説』など、人と動物が交わる物語に着想を得た。素材の違いから作風はがらりと変わるが、いずれも根底には「人は大きな自然の一部」という考えがある。

 

幼い頃に父親とよく行った山歩き。生い茂る木々の影に、踏みしめる地面の下に、生きものの気配を探った。日が暮れた後、何も見えない闇の中に未知なる獣の姿を思い描いた。人知及ばぬ自然の力が確かにそこにあった。その経験が今の制作に繋がっている。

 

今展では特に、人と自然の現身である動物との境界に眼差しを送る。人を人たらしめるのは言語だ。人はこれまで様々な感情を言語化し枠にはめてきた。その言語では表し得ない、しかし確実に私たちの中に生じるむき出しの感情、言うなれば“激情”を作品で表したいという。

 

作品制作には現在の仕事も良い影響を与えているようだ。勤務先は東京藝大のCOI(センター・オブ・イノベーション)拠点。昨年より特任研究員として最先端の科学技術を用いた芸術プロジェクトや文化財の修復・研究等に携わっており、3月に富山・高岡で公開された法隆寺「釈迦三尊像」のクローン制作にも参加した。「像の失われてしまった部位を3Dモデリングによって作り出し、釈迦三尊像の本来の姿を再現しました。COIの仕事を通じて国内外の文化財や美術品に触れ、私自身の表現の引き出しが増えたように思います」。

 

しかし同時に、仕事と作家活動を両立することの困難さも思い知った。彫刻は、何より続けていくことが難しい。多くの友人が大学を出たのち彫刻から離れている。藝大近くの共同アトリエの一室で「一番の目標は、一生彫刻を続けること」と笑う。「だからこそ、自分の作りたいものに正直でいたい」。それは人と自然のつながり。幼い頃からの、そしてこれからも変わらぬ大石雪野のテーマである。

(取材:和田圭介)

 

 

 

 

 

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大石 雪野 (Yukino Oishi)

 

1988年北海道生まれ。2007年に東京藝術大学美術学部彫刻科に入学し、大学院、助手時代まで一貫して北郷悟の下で学ぶ。2016年に大石雪野彫刻展「They went out of sight.」(銀座・ギャラリーせいほう)を開催。現在は東京藝大COI拠点に特任研究員として勤務。4月18日から7月2日まで開催される「ブリューゲル『Study of BABEL』展」の巨大プロジェクションマッピング制作にも携わっている。

 

【展覧会】大石雪野展「人獣混譚」

【会期】2017年3月31日(金)~4月15日(土)

【会場】Fuma Contemporary Tokyo/Bunkyo Art(東京都中央区入船1-3-9長﨑ビル9F)

【TEL】03-6280-3717

【営業時間】11:00~18:30

【休廊】日・月曜、祝日

 

【関連リンク】Oishi Yukino Sculpture & Painting

 


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