伊東順二:飛鳥が告げる未来 法隆寺釈迦三尊像再現プロジェクト

2017年04月18日 13:09 カテゴリ:コラム

 

 

富山県高岡市ウィングウィングホールで開催した「法隆寺 再現 釈迦三尊像展―飛鳥が告げる未来―」(初公開)は3月20日、10日間の会期を終えた。入場者約2万人、内外のプレス取材おおよそ100社という成果を残したが、それはゴールではない。

 

東京藝術大学の宮廻正明教授率いるチームが開発したデジタル複製に関する特許技術の展開マネジメントを構想したのは私が建築の隈研吾とともに2013年に開館した福岡県の九州芸文館のプロデュースを担当した時だった。科学的にも証明できる精密な文化財の複製はどのような目的を持つことができるか、また芸術の機能としてどのような新しい次元を切り開くことができるか、それが私の興味だった。

 

発想したのは文化財の復元による記憶の再生である。法隆寺金堂壁画のみでなくそこに至る今は分断された記憶のつながり。その中に九州北部もある。宮廻チームと協議し、敦煌莫高窟壁画、高句麗古墳群江西大墓壁画もともに再現することになった。ほぼ同時代の壁画の連鎖は技術と文化の連なりを証明するものである。完成すると1000年以上前の交流が眼前に広がるようだった。

 

いかに精密に再現しようと100%同じになることはほぼ不可能であるが、それを目指す工程と検証の中に記憶とストーリーを遡ることができる。また触覚などの新たな経験を込めることもできる。つまり、私たちとの共時性を付加することができる。そう確信した。

 

 

高岡市、南砺市と協働した今回の法隆寺釈迦三尊像再現プロジェクトでは三尊像を日本の工芸技術の原点であり、その結集を再現するストーリーを重ねた。数百年の歴史を持つ個々の産地の技術、藝大の3D技術と集合されている工芸技術、知見。再現するものは疑う余地もない最高峰の国宝。法隆寺の大野管長の特別な許可を得て間近に見た時の44人の職人の輝く目を今でも忘れることはできない。国宝の血が現代によみがえった瞬間である。

 

成果を受けて、今後は二つの方向性を考えている。一つは技術の博物館のような多様性と精度を持つ日本の、世界に対する文化的貢献の拡張と日本の各地域の文化的再生と創生である。今回のプロジェクトに参加した若い職人や芸術家とその連携がそのシード(種)になることを祈っている。

 

(いとう・じゅんじ/東京藝術大学COI拠点 サブプロジェクトリーダー、キュレーター)

 

【関連リンク】東京藝術大学COI

 

 


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