年を重ねるたび、拘りも増え愛着も湧いた。油の層で飴色に輝くパレット、絵具で汚れたイーゼル、チューブから染み出た油でまみれたキャビネット。骨董好きの先生から頂いた生活感あふれる雑貨。苦労して集めた古物のモチーフ。見るたび新鮮で、制作意欲掻き立てる鈍い光、色、形。魅力的だった。
2011の大震災ですべて流失。今は仮設で暮らし、仮設のプレハブを借りてアトリエにしている。いろいろな形での支援もあり、何とか揃えることができた設備や画材。被災してまる6年、仮設のアトリエにも愛着のようなものが生まれ始めている。
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若いころ、よく実験したものです。板に麻布を貼ったり、和紙を貼ったり、麻袋を開いて膠で目止めして自作のキャンバスを自作したりと。その結果、市販のキャンバスの裏に、合理性と魅力を感じたこともありました。
被災後の今、拘りという程のものではありませんが、画用液を調合して作っています。ボイルしたり、日晒しにしたリンシードは市販品にありますが、それに鉛白を溶かし込み、ハーレムのシッカチフやベネチアテレピンを垂らし、テレピンで濃度を整えます。これを制作中の局面により、望ましい乾燥性、柔軟性、筆致に合わせて調合を変えています。決して気の長くない私ですが、画用液に関しては、今のところ不満なく制作できています。
鷺 悦太郎 (さぎ・えつたろう)
1958年岩手県陸前高田市生まれ、白日会会員。岩手大学教育学部特設美術科で学び、日展、白日会展に出品。2011年3月11日の東日本大震災で被災し、アトリエや200点もの作品が流失するも陸前高田市に留まり、現在は仮設のプレハブをアトリエとして制作を続けている。2017年の第93回白日会展で内閣総理大臣賞を受賞。今後の主な予定は、「改組 新 第4回日展」に出品。他、グループ展多数。
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