狭く、深く――研ぎ澄まされたその先に
大学入学の春、西田潤の作品と出会った。国際陶磁器展美濃やイタリア・ファエンツァの国際現代陶芸コンクールでのグランプリなど、若くして国内外のコンクールで受賞を重ね現代陶芸のホープと目されたが、2005年に28歳で急逝した陶芸家。その追悼回顧展だった。
大型の甕などの器物に磁土で成形した造形物と粉のままの釉薬を詰め入れ、1300度ほどで焼成。焼き上がった塊のヒビに金棒などを差し入れ割って渾然とした内面を露出させる――。西田の代表作《絶》、その「巨大な石の塊のような」圧倒的な存在感に言葉を失った。伝統的な陶芸とは全く異なる、常識外のオブジェ焼。自らの陶芸観が打ち壊され、同時に陶芸の可能性を知った。
現在の「颪(おろし)」シリーズに見られる切れ味鋭いシャープな造形は、ダイナミックで原初的な力に満ちた西田のものとは対照的だ。学生時代、やればやるほど「西田さんのような天才と自分は違う」と感じたという。自分には今までにない新たな発想で作品を作ることはできない。ならば既にあるものを極めよう。それが「轆轤」による造形表現だった。
轆轤によって成形した磁土の環を断ち、反り返らせることで優美な曲線による抽象形を作り出す。磁土は繊細。すぐ割れる。技術的な課題を一つ一つクリアしながら、「誰でも出来る、しかし誰もやりたくないような作業」を敢えて繰り返しながら、理想のかたちを求めてきた。
山から吹き降ろす澄んだ風を表す造形は、自然の気をはらみ、空間と和す。年々作品のスケールが増し、昨秋には台湾に新たな工房を構えた。窯のサイズはこれまでの2倍。「どんな作品を作れるのか、誰よりも自分がわくわくしています」。新作は7月のパラミタ陶芸大賞展で発表し「颪」シリーズの集大成とする。
近年は特に海外での評価が高い。コンセプチュアルな表現に偏らない、純粋な技法と素材による作品が「日本的、アジア的」だと受け入れられている。とはいえ、国内、国外を意識することは無いという。「本当に良い作品であれば、言葉は必要ないはず」。木野智史、29歳。大器である。
(取材:和田圭介)
木野 智史 (Satoshi Kino)
1987年京都府生まれ。2012年京都市立芸術大学大学院修了。在学中より精力的に発表し、国内外の公募展で受賞を重ねる。近年では2013年「The 4th ICMEA Symposium」(中国)金賞。2014年「The International Bienal of Ceramics of Maraxi」(スペイン)グランプリ。ニューアーク美術館(アメリカ)、国立スロベニア美術館(スロベニア)、ファエンツァ国際陶芸美術館(イタリア)などに収蔵。2017年4月、東京・日本橋のギャラリーこちゅうきょで個展。国内の美術館、画廊、美術評論家などの推薦による上位6作家が出品する「第12回パラミタ陶芸大賞展」(7月14日~8月27日)に出品。
【展覧会】第12回パラミタ陶芸大賞展
【会期】2017年7月14日(金)~8月27日(日) ※投票期間:7月14日(金)~8月6日(日)
【会場】パラミタミュージアム(三重県三重郡菰野町大羽根園松ヶ枝町21-6)
【TEL】059-391-1088
【営業時間】9:30~17:30(入館は17:00まで)
【休館】会期中無休
【料金】一般1,000円 大学生800円 高校生500円 中学生以下、障害者手帳持参者無料
【関連リンク】木野智史