さる3月8日にホノルル・ビエンナーレが開幕した。事の発端は、5年ほど前にホノルルのアカデミーから招待されて講演したときに、ハワイは北米とアジアの中間にあり、二つの異なった文化地域の橋渡しをする重要な場所ではないか、ビエンナーレでも始めて、アロハ・ビエンナーレと名付けてはどうか、というかなり本質的、戦略的な視点を多少冗談交じりに、伝えたことである。その後、2年前に、今回のビエンナーレの創始者3人が香港のアートフェアの会場で、私にホノルルにおけるビエンナーレの提案をしてきたことから始まった。
それから資金調達、行政との折衝、チームメンバーの編成など、様々な紆余曲折を経ながら、昨年末にやっとある程度の形が整い、今年の1月には、輪郭がほぼ固まって本番となった。しかしそのプロセスで、何度か、これは無理だからもう撤退しよう、と考えたこともある。しかし関係者は、もし今回中止となったら、ホノルルでビエンナーレを始めようという人が当分は出てこなくなるだろう、という危機感を持って、まずは小さくても第一回目を開始しようという思いで開幕まで行き着いた。
当初私が考えたコンセプトは「海流の中の島々」というものだった。これはヘミングウェイの最後の著作、「Islands in the stream」からインスピレーションを得たものだった。その後、学芸アドバイザーの人たちとの議論を経て、タイトルは「Middle of now and here」を掲げることとなった。これは英語の常套句「Middle of Nowhere=みんなが知らないどうでもいい場所」をもじった語呂合わせでもある。その意図は、太平洋のただ中にあるハワイという島が、政治的にも経済的にもたいして重要でない場所と思われているが、しかし実は個性もあり、歴史もあり、太平洋の島嶼諸国のなかで、一つの重要な位置を占める場所であることをアイロニカルに主張している。
そこで、選出されたアーティストも、太平洋の島嶼諸国を中心に、アジア、北米の作家とした。作家の半数以上が、サモア、トンガ、マーシャル諸島、タヒチ、それに地元のハワイ出身の作家でしめられ、きわめて独自のビエンナーレとなった。多くの作家が、オーストラリアやニュージーランドで美術を学び、その後住み続けている者も居て、彼らは十分に現代美術のヴォキャブラリーを知っていることも、興味深い発見だった。日本からは草間彌生、ケン+ジュリア米谷、チームラボが参加した。太平洋に焦点を当てた国際展には、ブリスベーンのアジアパシフィック・トリエンナーレ、オークランドのビエンナーレなどがあるが、ハワイでやることによって、これまで以上に広い観客の注目を得たのではないかと思う。日本でもそのうち是非、太平洋文化に焦点を当てた展覧会を開催したいと思う。
さて、日本では4月にギンザ シックスがオープンした。これはギンザに新たに登場した巨大な商業施設兼オフィスビルである。2ブロックを使って開発されているために、細い道路をまたいでできているのは驚きである。このビル内部のパブリックアート(草間彌生、杉本博司、大巻伸嗣、船井美佐、堂本右美の作品)を森美術館が監修した。チームラボとパトリック・ブランの壁画作品もある。特に吹き抜けに設置された草間のカボチャ14個は視覚的にもきわめて強く、ギンザ シックスの象徴となった。ただし、この吹き抜けのアートだけは、およそ1年ごとに掛け替えていくことになっている。また蔦屋書店と関連して、ギャラリーも併設され、かなり貴重な作品も見ることができる。あらたなアートの拠点ができたと言うこともできそうだ。(森美術館館長)
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