[画材考] 陶芸作家:新宮さやか「庭」

2018年06月18日 10:00 カテゴリ:コラム

 

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はさみ、筆、とにかく道具を使いこなす事が苦手だ。週に一度は料理中に包丁で指を切り、自分に呆れる事にももう飽きた。

 

大学で陶芸を始めた頃、電動ロクロ、石膏型、制作のプロセスで使う道具たちを悲しい程ものに出来ず、成績も悲しいものだった。手ひとつで作れる物にしようと決めた劣等感に満ちたあの日を覚えている。今の作風はそこが原点だ。土の感触を手で確かめながら制作している内、感触そのものを形にしたいと考えた。視覚で感じる皮膚感覚。自分の作品には常にそれを求めている。

 

形のヒントは頭の中にある。蟻の造形や木の芽の形。蝶の柄、落ち葉の色、キジバトが休む姿やメジロの羽根。幼い頃、家の庭でそれらを観察する事が好きだった。庭の様々な種類の草花をすり潰し砂糖を混ぜた自慢のオリジナルジュース屋を開き、作っては一人しかいない客である兄に飲ませた。その中にはやや毒のある花もあったらしく、母からめちゃ怒られたが、兄が今も尚、元気で良かったな。

 

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幼少期の記憶はほぼ庭での事ばかりだ。庭に広がる小さな世界に満ちた草花や、生き物の造形には理由がある。それを教えて欲しくて注意深く観察していると、そっと理由を語りかけてくれる。私は今日まで教えてもらった沢山の理由と私の理由を繋ぎ、形を作る。

 

動植物を尊敬し、毎日憧れている。偉大な師匠でもある。たくさんの師匠に囲まれて暮らしたいが今の家に庭はない。庭付きの家に住む事が目下の夢だ。

 

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新宮 さやか (しんぐう・さやか)

 

陶芸作家

 

1979年大阪府生まれ。2001年大阪芸術大学芸術学部工芸学科陶芸コース卒業。2003年滋賀県陶芸の森アーティスト・イン・レジデンス。京都を拠点に制作を続け、これまで個展、グループ展多数。「アジアトップギャラリー・ホテルアートフェア」、「ART OSAKA」など国内外のアートフェアでも人気を集める。

 

6月20日から26日まで髙島屋日本橋店6階美術工芸サロンで「新宮さやか 陶展」を開催。9月には愛媛県西条市のギャラリーラボでも個展を予定している。

 

 

【関連リンク】髙島屋の美術 ギャラリーラボ

 


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