[フェイス21世紀]:水津 達大〈日本画家〉

2018年06月11日 10:00 カテゴリ:コラム

 

自らの眼差しを問う

 

アトリエにて(2018年5月10日撮影)

 

なぜ自分は絵を描いているのか――。最近、ようやくわかったような気がするという。どうやら「描きたいと思っている自分」がいるようだ。本を読んでみても、思いを巡らせてみても、終いにはどのように描くかを考えていた。描きたいから描く。単純な事でした、と笑う。

 

中高時代から文学や東洋思想に心惹かれる。古きを好み、日本画の道に進んだのも自然ななりゆきだったのかもしれない。東京藝術大学に入って村上華岳や奥村土牛に触れ、風景を主なモチーフに制作した。

 

その志向は、今日に至るまで一貫している。抑えながらも切れ味鋭い色づかいに、余情を誘う”引き“を心得た構成の妙。空間、時間の豊かな広がりを感じさせる心象の風景。懐古的とも言えようが、古典に問いつつ新たな精神を獲得しようとする守破離の姿勢が快い。

 

《揺らぐ森》89.4×145.5cm

 

院展に入選を重ね、近年は個展やグループ展など発表の機会も増えている。2016年にリヨンで個展を開催し、その縁から今春、日仏友好160周年を記念するフランスでの展示に参加。自ら山種美術館の協力をとりつけるなど奔走し、市庁舎の荘厳な空間に同窓の安原成美、窪井裕美と作品を並べた。

 

異国での発表は、自らの「視点」を改めて考えさせるものであった。異なる文化との対比との中、日本の美意識が自身に根付いていることがわかった。「描くものを見出すには、自分が世界をどのような視点で見ているのかを確認することがきっと必要で、そのために日本の歴史や文化、風土を深く知るべきだと感じました」。

 

学びは問うことから始まると小林秀雄は語った。そして、答えを得ることではなく、問う姿勢こそが肝要なのだと。「なぜ描くのか」「何を描くのか」「そこに描く必然性はあるのか」。常に問いとともに画面に向かってきた新鋭は、これからも問い続けるのだろう。自らの必然を求めて。

(取材:和田圭介)

 

リヨン市庁舎での展示風景。在リヨン領事館が主催し、駐フランス日本国大使の木寺昌人氏も出席するなど、「ジャポニスム2018」の先鞭をつけるイベントとして大きな注目を集めた

 

現地の人々の「日本画」という異国文化に対する率直な好奇心に、改めて自らの表現を考えさせられたという

 

風景をそのままに描くことはない。各地を旅して写生を重ね、頭の中にイメージを作り上げていく

 

近年は特に惹かれるのは「石」だという。柔らかな丸みを帯びたこの石は、南フランスの港町カシ(Cassis)で拾ったもの

 

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水津 達大(すいづ・たつひろ)

 

1987年広島県生まれ。2013年東京藝術大学大学院修了。在学中より院展に出品し、現在日本美術院院友。院展や個展、グループ展に加えて「FACE 損保ジャパン日本興亜美術賞」、「Seed 山種美術館 日本画アワード」などコンクールでも入選を重ねる。2016年に仏・リヨンのGALERIE 48で個展を開催。今春の外務省在リヨン領事事務所主催「日本画×新世代―伝統と伝承―」(3月23日~31日・リヨン、サンテティエンヌ他)では参加作家として企画から携わる。今後は「第4回 昇の会」(6月18日~23日、銀座スルガ台画廊)、「第6回 無窮の会」(6月13日~18日、日本橋三越本店)など。秋の「2018東美アートフェア」では、2人展(靖雅堂夏目美術店ブース)が予定されている。

 

【関連リンク】水津達大

 


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