[通信アジア] 「建築の日本展」とヴェニスの建築ビエンナーレ:南條史生

2018年09月28日 19:15 カテゴリ:コラム

 

「建築の日本展」か丹下自邸模型

「建築の日本展」か丹下自邸模型

 

森美術館では、4月から「建築の日本展:その遺伝子のもたらすもの」を開催した。3年おきに建築・デザイン系の展覧会を開催することをプログラムのコンセプトにしていたのだが、前回の建築展は「メタボリズムの未来都市展:戦後日本・今甦る復興の夢とビジョン」で、気付かないうちに6年が経ってしまった。

 

今回の展覧会の背景には2020年にオリンピック・パラリンピックを控える現在、増加するインバウンドの流れも考慮しつつ、現代の日本文化がどのようなものであるかを内外に発信していこうという考え方のもとに構想されたものだ。

 

さてよく考えてみると日本の現代建築は国際的に極めて強い。たとえば、ヴェニスの建築ビエンナーレで賞を取った建築家は石上純也など数人いる。建築のノーベル賞といわれるプリツカー賞の受賞者は6人・組を数える。一方でアートの方はヴェニスビエンナーレで金獅子賞を取った人はまだ一人もいない。厳密に言うと、1956年に棟方志功が国際版画大賞を受賞したことがある。

 

どうも建築はアートよりも強い。

 

となると日本の現代文化の内で国際的に一番認知度が高いのは、建築だと言うことになるのではないか。そこで、あの建築に強い日本、という意味を込めて、タイトルも「日本の建築」ではなく、「建築の日本」となっている。

 

コンセプトは明快である。日本の現代建築が強いのであれば、それは日本の伝統建築の中になんらかの特性があり、それが遺伝子として現代建築にも現れて、今日の隆盛を見ることになったのではないかという仮説である。

 

そこで日本の伝統建築から現代に至る建築史を俯瞰して9つの要素を抽出し、それに該当する新旧の参考例を展示し、関連づけを見てみようというのが本展のコンセプトだ。

 

この仮説は、科学的に論証することは簡単ではない。しかしそのような仮説に基づいて構築された展覧会はこれまで試みられたことがなかったので、多くの人々に多様なインスピレーションを与えたようだ。現在、一日約3500人平均の入場者を記録し、会期が終わる9月17日までに50万人を超える入場者を迎えることになるだろう。

 

もっとも、開催してから何度も展覧会を見ているうちに本展の問題点に気がついた。それは、アジアとの過去・現在の関係があまり描かれておらず、欧米との関係が主となっていることである。それは我々が受けてきた教育の作り出した微妙な偏向だと言うこともできるのかもしれない。ただし、この問題については、ここでは深入りせず、観客の方にもそれについて考えてもらいたいと思う。もう一つの問題点は、どうも現代の作例より、古いモノの印象が強い。その理由というものも皆さんに考えていただけたらと思う。

 

展覧会の見所は、利休の残した茶室、待庵の実物大模型、丹下健三自邸の3分の一模型、そしてメディア・アーティストのライゾマティクス・アーキテクチャーが制作した映像体験インスタレーションである。ライゾマのメディアアートのような作品を展示に含められたのは、もともと森美術館が現代美術館だったからこそのことではないだろうか。

 

さて、この展覧会を開幕してから後、ヴェニスの建築ビエンナーレを訪問した。不思議なことにもっとも印象に残ったのは、結局アート的な表現をしているパビリオン(たとえば北欧館、スイス館など)だった。建築の方々には申し訳ないが、アートの持つ象徴的な表現、メディアの自由な援用、メッセージの深さというものは、やはり模型を並べる通常の建築展では表現できないことなのだろう。

 

パリで見たカルティエ現代美術財団の石上純也展の、極めて象徴性の高い仕事の多彩な事例紹介は、アート展のようだった。アートと建築の関係についての論議も奥は深い。(森美術館館長)

 

ヴェニスの国際建築ビエンナーレの北欧館

ヴェニスの国際建築ビエンナーレの北欧館

 


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