2017年の春にとある画廊から「今度絵の展示をしてみない」と言われた。その時にはあまりぴんとこなかったが「はい」と返事をした。
夏になり台風が私の群馬のアトリエの上空も通過すると天気予報で聞き、急遽思いつきで台風を使って描くドローイングを考案した。アトリエの外の一角に紙を敷き、辺りの小石を拾って紙の上に並べた。その小石の上に絵の具を置き設置完了。あとは台風が通過するのを待つだけだ。午前中に設置が終わり、午後にかけて猛烈な雨と風が襲い台風が通過した。通過後には、夏の空気を含んだ青空が広がり気持ちの良い天気となった。
絵を覗いてみると、設置時とあまり変わらない状態で非常に残念な気持ちになった。3時間くらい暴風雨が続いて石の上の絵の具もすっかり無くなり、紙にも定着せずに流れてしまったのだろう。ところが、気を取り直して石を取り上げてみると、そこには思いもよらない光景が。紙と石の接点の部分に絵の具が残っており、石のかたちが確認できたのだ。台風によって石と大地がしっかりと結びついた瞬間を覗いたのだった。思いもよらぬ展開に一人気持ちが高揚したのを憶えている。
さて、私は普段陶芸家として活動している。制作の最後に作品を窯にゆだね、完成を待つことが制作のプロセスとなる。考えてみれば今回のドローイングも自然(台風)に作品をゆだねるということであった。陶芸制作の考えが体に染みついていることに、あらためて気が付いたのであった。
1970年大阪府生まれ。97年東京藝術大学大学院修了。大型のオブジェを中心として制作を続け、茶道との出会いをきっかけに穴窯による制作を開始。陶の粒子と平板ガラスを組合わせた「空」シリーズから釉彩技法による茶陶まで作域は広く、「用の美としての陶芸」「先端芸術としての陶芸」「文化の発信としての陶芸」を発信するべく国内外で発表を重ねている。現在は東京藝術大学、信州大学で非常勤講師、跡見学園女子大学で兼任講師を務める。フィラデルフィア美術館、ニューアーク美術館(ともにアメリカ)、岐阜県土岐市文化振興事業団が作品所蔵。
10月30日(火)~11月18日(日)藝大アートプラザ「陶磁ガラスの現在形」、2019年1月24日(木)~2月24日(日)フランス・パリ国立高等芸術学院「Formes Limites(フォルム・リミット)」に出品。
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