今年も冬がきた。雪国で生まれ育った私に、故郷を思い出させてくれる冬だ。
もっとも故郷のそれは、体の芯に届く、有無を言わさぬ白なわけだが、そのもとでひっそりと春待つ木々に、形を変え温かみと柔らかさを蓄え注ぎ込む「生命の水」を創作の軸としてきたことに、これまた自然の導きを感じずにはいられない。
気付けば日本美術、特に琳派に惹かれた若かりし頃の私は、その大胆さを鑿に乗せながらも、しかしいつしか工芸的と評されたことを今でも覚えている。当時における工芸的という言葉は、日常に埋没しがちなスケールの小ささを感じさせ、決してほめ言葉ではなかっただろう。
それから三十余年、世界のアートシーンとこれまでと違った邂逅を果たした日本美術界は今、彫刻の概念そのものを再考する大きな機会を得ている。
私は「±複号の彫刻家たち」展を立ち上げた。併せ持つという意味の「複合」ではなく「複号」。記号で表すと「±」。塑像に代表される足す・加える行為と、減らす・削るといった素材から彫り出す行為――つまり現代における彫刻そのものを表すこの取り組みは、彫刻の原点に立ち返りつつ、今まさに芽吹き、葉を備え、枝を伸ばさんとする日本彫刻界の新たなアイディアを世に送り出す、可能性への挑戦なのである。
今年の冬を越える若木は、どんな表情を私に見せてくれるだろうか。握る鑿の冷たさを肌に感じつつ、まだ見ぬ若芽に、心躍らせている。
松田 重仁 (まつだ・しげひと)
1959年山形県生まれ。84年多摩美術大学大学院修了。現在日本美術家連盟会員、多摩美術大学非常勤講師。生命の根源である水をテーマに、木彫に真鍮を取り入れた有機的で生命力溢れる芽や花の作品を数多く手がける。国内外での発表や芸術祭への出品、パブリックアートの制作等その活動は多岐にわたる。
2019年4月20日(土)~6月16日(日)に目黒・現代彫刻美術館にて、連続企画展「±複号の彫刻家たち展」を開催予定。
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松田重仁 ± 複号の彫刻家たち実行委員会事務局
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