[フェイス21世紀]:田島 享央己 〈彫刻家〉

2019年01月28日 10:00 カテゴリ:コラム

 

笑み溢れる“刻”

 

アトリエにて(○月○日撮影)

アトリエにて

 

ベレー帽と、胸に躍る〝シドロモドロ〟の文字――昨秋、日本橋三越本店の厳粛な空間でユーモラスな作品に劣らず異彩を放っていたのが、南青山に「シドロモドロお彫刻教室」を開く彫刻家・田島享央己だった。

 

田島は仏師の流れを汲む彫刻一家の五代目。初めて鑿を握ったのは0歳の時、そう言って過言ではない環境で、好奇心旺盛に育った。「プロレスラーやエッセイスト、ロックンローラーになりたかった。」と笑いながら話す田島だが、幼稚園の文集に記した将来の夢はその時既に彫刻家だった。
 

“お彫刻”たち

個性もさまざまな“お彫刻”たち。
つぶらな瞳にはブラックオニキスが用いられる。

田島の作品はマリオネットから造形美術、シリアスなファインアートと実にさまざまだが、なかでも人気を博するのが〝ピエタシリーズ〟に代表される、動物の木彫。ピエタとは磔刑に処され息絶えたイエス・キリストと、その亡骸を抱く母マリアを主題とする聖母子像の一つ。傑作と名高いミケランジェロのピエタに魅了され自らも制作したそれは、どこか哀愁を漂わせながらも愛らしいフォルムに配色や組み合わせの妙も相まって、観者の目と心を愉しませる。

 

何にも似ないその作風には、田島の人間性が凝縮されている。特に好きだという運慶はじめ数多の作家から受けた影響、演芸や郷土玩具に及ぶ嗜好、祖父から三代にわたり重用する名工・千代鶴是秀の鑿にも窺える道具へのこだわり……何より〝売れる〟ことに真正面から向き合う姿勢、それらすべてが、唯一無二の造形を創り出す。

 

クラウドファンディングで支援金を募り原宿から移転した「シドロモドロお彫刻教室」は現在50名近い門下生を持ち、入門を待つ長蛇の列は日に日に長くなる。門下生に田島について聞くと、「あんな恰好で三越にいるような、そのままの人。」そんな声に、教室は和やかな笑いに包まれた。ふれる人を自然と笑顔にするのは、決してその作品だけではない。

(取材:秋山悠香)

 

(左)「ハシビロコウのピエタ」2018年 (右)「イカピエタ」2018年 いずれも昨年日本橋三越本店での個展「田島享央己木彫展 ―花も嵐もお彫刻―」の出品作品。

(左)「ハシビロコウとタコのピエタ」2018年 (右)「イカピエタ」2018年
いずれも2018年日本橋三越本店での個展「田島享央己木彫展―花も嵐もお彫刻―」に出品。同展では会期中に出品作品が完売した。

 

木彫

えも言われぬ可愛さを呈する作品は、女性を中心に大人気。
制作時には、常に“お客様目線”を忘れない。

 

(左)アトリエ、「シドロモドロ工作所」内。中央に見えるのは、2016年第80回記念新制作展新作家賞受賞作「Almost Blue」。 (右)制作において特に強いこだわりを持つ道具。

(左)アトリエ、「シドロモドロ工作所」内。中央に見えるのは、新制作協会会員推挙に至った2017年新制作展出品の「Almost blue」。
(右)制作において強いこだわりを持つのが、その道具。千代鶴是秀のほかにも初代小信や左小信、清忠など名工の業が制作を支える。

 

「シドロモドロお彫刻教室」は、

「シドロモドロお彫刻教室」の様子。入門者に配られるロゴマーク入りのエプロンを着け、黙々と制作に励む門下生の皆さん。教室の移転・拡大のためのクラウドファンディングでは目標の2倍、500万円を優に越える支援金が集まった。

 

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田島 享央己 (Takaoki Tajima)

 

1973年千葉県生まれ、2000年愛知県立芸術大学美術学部彫刻科卒業。現在新制作協会会員、南青山にて「シドロモドロお彫刻教室」を主宰する。99年国際瀧冨士美術賞受賞、09年北の動物大賞展大賞受賞、14年第78回・16年第80回記念新制作展新作家賞受賞。2月12日河出書房新社より自身初となる著書『シドロモドロ工作所のはじめてのお彫刻教室』を発売、出版にあわせて2月21日~3月22日代官山蔦屋書店にて個展「田島享央己木彫展~彼は何故これを彫ったのか?~」開催予定。

 

【関連リンク】シドロモドロ工作所

 


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