昨年の11月末に北京の北、1時間ほどにある古北(グベイ)という町に招かれた。
今年の3月31日に始まる烏鎮(ウージェン)のビエンナーレの記者発表に出席するためだ。なぜ北京から離れた場所で記者発表をするのかわからなかったが、行ってみて驚いたことに、この町(村?)は、烏鎮と同じ民間の会社が全体を経営しているのだ。
町を経営するとはどういうことかというと、この会社の社長がヴィジョンを持った人で、町を全部古い町並みに再生したのだという。それは博物館の資料のような意味で古いままというわけではないのだが、実際中に入ると、古い町がそのまま残されているように感じる。見方によれば、町全体がディズニーランドのように経営されているということになる。しかし何が真実か混沌とした時代に、こういう町も意味があるのではないか。
中には立派なホテルもあるし、商店、土産屋、工芸の工房、伝統芸能の実演などもあり、ある意味ではディズニーランドよりずっと文化的である。
さて烏鎮のビエンナーレ(WUZHEN INTERNATIONAL CONTEMPORARY ART EXHIBITION)は、3年前に始まったもので、おそるおそる実施してみたら、メディアを含め大変評判が良く、中国に多々ある展覧会の中で最も出来がいいという評価をとったものだ。そこで、市はビエンナーレとして定期開催を決めた経緯がある。キュレーターは早い時期にアイ・ウエイ・ウエイと仕事をしてきたファン・ボイである。
烏鎮は上海から130キロほどの場所にありヴェニスのように運河に沿って広がった町で、古いままの佇まいを見せ、素晴らしい観光地でもある。1回目には町の外れの繊維工場を改築したかなり広い展示棟と、古い町の公共空間をうまく使って、繊細な作品から大きな作品、メディアを使った作品、外国の著名作家(オラファー・エリアソン、マリナ・アブラモヴィッチ、リチャード・ディーコン、アン・ハミルトン、菅木志雄など)と中国人作家(アイウエイ・ウエイ、リュー・ジャンファ、ソン・ドン等)のバランスをうまくとっていた。
今年の第2回目には、イー・ブル、ラファエロ・ロレンツォ・ハマー、アネット・メッサジェ、シリン・ネシャト、モナ・ハトウムなどが参加し、は日本から妹島和世、大巻伸嗣、名和晃平らが参加する。
中国には相当数のビエンナーレがあるが、烏鎮のようにヴェニスのような運河の町の魅力と、数は多くないがうまくセレクションされた現代美術が、その空間とマッチしておかれているものは少ないだろう。もし時間がある方は是非訪問してみるといい。(森美術館館長)