巨大な倉庫のような建物が様変わりして、まさに「マンガの殿堂」と化していた。昨年11月28日夕方、パリの展示場ラ・ヴィレットにおける国立新美術館の企画による展覧会「MANGA⇔TOKYO」展の内覧会に行くと、正面入口に「MANGA⇔TOKYO」と大きく電光文字が出ていて左右にマンガの看板が立ち並んでいる。入ってゆくと、アッと驚くような空間が現出した。
先ず中央に400㎡はあるかという都市東京の模型が設置され、その向こうこれまた大きなスクリーンに大音声で映し出されているのは「ゴジラ」や「AKIRA」、「秒速5センチメートル」など有名作品の映像。その映像が流れると、それらが現れた場所をしめす光が東京の模型の相当する場所に輝く。ああ、ゴジラはあそこに出てきたのかと分かる仕組みなのだ。
模型の大きさに驚き、その映像と音と場所の掲示に二重に驚いて、私自身驚嘆のあまり声もなかった。パリと言わず外国で、いや国内でも、日本人が作ったこのような巨大な仕掛けによる展示に接したのは初めてである。1階の展示を取り囲むように作られた2階部分には壁面を多様な原画(複製)と立体物展示作品が覆っている。2階の手摺から1階を見下ろせば模型の東京がまぶしく光る。壮観としか言いようがない。「陽だまりの樹」や「あしたのジョー」、「百日紅」、「機動戦士ガンダム」など代表的作品が飾られ展示してあり、これもまた素晴らしい。
この展覧会は、「ジャポニズム2018」と題するフランス・パリにおける日本文化の一大デモンストレーションの一環として国際交流基金の支援の下に開催されたものである。日本政府とフランス政府の合意のもとに行われた、いわば「日本文化年」の行事。全体で80以上もの各種イベント、展覧会やパフォーマンスがパリを中心に開催された。
一昨年の秋に「マンガ・トーキョー」の企画をもってラ・ヴィレットを訪れ、館長や幹部に説明をして、そのあと会場を見せてもらった時には、茫然として大丈夫かなと思ったのだ。19世紀に牛舎として建てられたという建物は大きい倉庫のようでガランとして、ここで展覧会かと感じたのだ。こちらに提供されたのは全体3500㎡の空間で、通常の美術館の展示場とは全く異なり、展示空間を作ることから何もかも新たにしなければならない。この空間で大きな展覧会もコンサートもバザールも行われるという。
それを先に記したような一大「MANGA⇔TOKYO」の魔術的展示空間に生まれ変わらせたのは、この展覧会の企画・実行の総指揮をとっていただいた明治大学の森川嘉一郎教授(当館評議員)に他ならない。森川先生はアニメの専門家であるが、ヴェネチアの建築ビエンナーレに出展されたこともある建築家でもあり、その両方の知識と技術とがこの展覧会を可能にした。正直言って、森川氏は天才だと感じた。こんな言葉は容易に使えまい。そして何よりも文化庁と国際交流基金の多大なご援助、集英社、パリの日本大使館の手厚いご支援、その他関係者の皆様のご協力、ご助力に心から感謝申し上げます。
また私の感じるところ、企画を説明した当初はそれほど強い関心を持たなかったに見えたラ・ヴィレットのフィジリエ館長も実現した展覧会を見て感嘆したらしく、来年(2019)に数か月改めて開催してくれないか、と木寺昌人日本大使のいる前で要請されたのだが、それは諸般の事情で不可能であった。
「マンガ都市東京」、いや今や「マンガ都市パリ」でもある。本当にありがとうございました。(会期:2018年11月29日~12月30日) (国立新美術館館長)