ダジャレーサーの行き先
《ヒグマッターホルン》《エベレストラ》《ロープグ》《シカラビナ》。櫻井かえでが3月18日からギャラリーせいほうの個展で発表した作品のタイトルは、山や登山道具と動物が組み合わされたダジャレだ。ダジャレ作品のイメージが強い櫻井だが、武蔵野美術大学の卒業制作は、冷蔵庫の背後に潜む不気味なカバの作品で「残留農薬や食品添加物の危険性」を訴えていた。
大学院に進学し、卒業後助手になったものの環境変化によるストレスにさらされ、作品制作にも迷いが出始める。そんなとき救いとなったのが、大型バイクでの長距離ツーリングだった。バイクから見る風景は内向きになっていた視線を外に向け、作品も重い社会テーマではなく〝本来の自分が持つユーモアの精神を復活させた〟という。
2009年の個展では《ウマクラ》《ウシーツ》《マクラカバー》など、ダジャレセンスが遺憾なく発揮された作品が並び大好評を得た。同年にはバイクレースに初参加し、制作面では木の素材感を出した荒々しい作風を全面に出すようになる。しかし「ここ数年は作品が丸くなってしまったような気がするし、レースでも目標タイムをあと0.1秒切れない状態が5年続いている」と語る。
今度の個展では割れが入ったホオノキなど、あえて彫りづらい木を選び、ゴツゴツした本来の作風に戻ろうと試みている。開催まであと1週間しかないが、まだ全作品が完成していない。
「でもこのギリギリ感がコーナーを攻めているようで心地よいし、次のレースで0.1秒を切ったら、その勢いで作品も新境地に入るかもしれない」と屈託なく笑う。
レース用バイクにはサイドミラーが付いていないという。今後も櫻井は制作でも一途に〝前だけを向いて走り続ける〟に違いない。
(取材:南雅一)
櫻井 かえで (Kaede Sakurai)
1974年東京都生まれ。武蔵野美術大学客員教授。2002年武蔵野美術大学大学院造形研究科修士課程美術専攻彫刻コース修了。01年ギャラリーせいほうで初個展を開催(その後、07年から2年ごとに開催)。10、12、14、16年、佐久市立近代美術館「新収蔵品展」に出品。14年、第13回KAJIMA彫刻コンクール銅賞受賞。18年、GALLERY RUEVENTで彫刻展「ハブラシカブラシカクシカ」開催。19年3月18日~29日までギャラリーせいほうの彫刻展「鳥とカタツムリの登山計画」にて、木彫11点とドローイング3点を出品。
【関連リンク】櫻井かえで(武蔵野美術大学共通彫塑研究室)