〝Nothing gold can stay〟
「日本の絵画をアップデートしたいです。」画家・品川亮は、胸に抱く大きな展望を迷いなく言葉にする。
造詣の深さに裏打ちされた、日本の古典を色濃く湛える作品を生み出す品川。彼を現在地へ誘ったのは、二度の海外経験と言っても過言ではない。
高校卒業後、ルネサンス期の絵画が宇宙一だと、イタリアへ遊学。その地で母国に対する己の無知を知った。日本という国を見つめ直す中で、大学進学時には自然と日本画を選択する。
今の日本人にしか描けない絵を描きなさい――そう諭されたのは学部3年、スイス留学の折。以降、日本絵画の源流とも言うべき大和絵の系譜を自らの手で現代へ紡ぐべく、模索を重ね現在の作風に辿り着く。
しかし、品川が追求する芸術を偏に“日本画”とは括れない。美術のみならず宗教や歴史、今日に至る日本の成り立ちを再考しようと、箔や墨の絵画に立体や空間芸術、多様なアプローチで果敢に挑戦する。
その中でとりわけ注目されるのが単純化、“型”をテーマとした作品だ。
「日本は大陸文化を咀嚼し単純化して独自の文化を作り上げ、“型”という概念はその行為の中で生まれました。絵画にもまた“型”は存在します。」
光琳の饅頭菊に端を発し、宗達や抱一、琳派への私淑を窺わせながらも、丸みを帯びた独特の一筆書きやペイント線による意匠は現代的感性あってこそ実現する新しい“型”、その試みの発現と言えよう。
“Nature’s first green is gold,”、ロバート・フロストの詩の一節を冠した先の個展は盛況を見せ、作品は瞬く間に完売。そんな人気に驕ることなく衒いのない人柄だが、発する表現の一つ一つに確かな自信が宿る。
輝きはいつか失われる――その詩題は真理かもしれないが、かつて途絶えた古の美の潮流は、品川の歩みと共に再び流れゆくことを予感させる。
(取材:秋山悠香)
品川 亮 (Ryo Shinagawa)
1987年大阪府生まれ、2016年京都造形芸術大学大学院修了。08年に約1年間のイタリア遊学、12年に約6カ月スイス・ジュネーブ造形芸術大学に交換留学を経験。11年第26回国民文化祭美術展奨励賞、15年京展館長奨励賞受賞。関西を中心に個展・グループ展多数。アートフェア東京2019にギャラリー広田美術より出品。5月31日~6月15日同ギャラリーにて5度目となる個展を開催。