毎年、画題を求めて海外に取材している。パリを拠点にレンタカーで各地を回るが、現場で油彩画を制作することの多い私にとって、欠くことのできないツールのひとつが野外イーゼルである。
とはいっても色々と揃えたり使い分けたりという訳ではなく、同じものを20年近く使い続けている。約25年前に死去した父が生前使っていたものだ。つまり相当年季が入っていることになる。フランスJULLIAN製のボックスタイプで、本体には主にブナ材が使われており、約8キロとずっしりしているがそのぶん安定感がある。
車で目的の場所まで向かい、後部トランクからこの野外イーゼルをひっぱり出すところから私の制作は始まる。手早く組み立て、引き出し部分にパレットを置いて絵具を絞り出す。溶き油をセットすれば準備は完了だ。現場での油彩画制作は時間や状況との勝負でもある。風が強めの日にはレンガ数個を乗せて「重し」を作る。小雨が降ってきたら、パラソルをくくりつければ画面やパレットを守ることが出来る(描いている本人は濡れるのだが)。同じエリアで他に良い構図が見つかった場合は、そのままよいしょとイーゼルごと移動して、2枚目・3枚目にとりかかることもある。移動式アトリエである。
制作が終わると画材類を片付け、野外イーゼルを畳んで車まで戻る。このずっしりした重量感がカンヴァスやパレット類を支えていると考えると頼もしい存在である。長年の使用で汚れや小傷は多いが、堅牢な造りでまだまだ壊れる気配もない。画材店で新品を見るたびに「いいな……」と思うのだが、この調子ではいつまで経っても買い換えることは出来なさそうである。
蛯子真理央(えびこ・まりお)
1969年東京生まれ、パリ出身。1995年武蔵野美術大学油絵学科卒業。2002年第37回昭和会展優秀賞。個展(日動画廊本店、渋谷東急本店、ギャラリーゴトウ等)グループ展(埋み火展、實の会、ヴェロン會等)。しばしばフランス各地、モロッコ、キューバ等で制作。写実画壇会員、ヴェロン會同人。
2019年12月7日より13日まで埼玉画廊(川口)で個展。