[フェイス21世紀]:阿部 観水〈日本画家〉

2020年03月13日 18:00 カテゴリ:コラム

 

”水槽の内と外で”

 

都内アトリエにて

都内アトリエにて

 

きっかけは、祖父から譲り受けた水槽だった。

 

自然や生物に好奇心を抱いた少年時代、当初昆虫だったその対象は自ずと魚へと移り、気付けば4畳の自室は寝床以外水槽で埋め尽くされていた。現在もアトリエには水槽が並び、熱帯魚から古代魚、両生類と多様な命が傍らを泳ぐ。今も変わらぬ魚への深い眼差しは、日本画家・阿部観水の根幹と言って過言ではない。

 

静寂が拡がる世界に、ふっと浮遊する魚たち…阿部の描く水中世界は、常に“水槽”の内にある。
「野生の魚と水槽で飼育される魚は違います。」日頃の取材と確かな画技は淑やかな遊泳の余韻を生み、近年では水槽の境界線が除かれて主観的な色形や陰影が配されるようになった。余白の美を追求する画面は、たゆたう水の如く変容を続ける。

 

3月18日より西武池袋本店で自身三度目となる百貨店での個展を控える阿部。美術史家・山下裕二氏の目にも留まりまさしく今注目の一人だが、くすぶっていた時間は短くない。

 

武蔵野美大入学後、逸る気持ちを抑えきれず数多公募展へ出品するも、結果は全滅。己の力を見定め、以後卒展まで一切作品を外に出さず制作に励んだ。卒業後は週6日のアルバイト生活、わずかな貯金で展示に出すも赤字続き。それでも境遇を類しながら同じ道を歩む同期の存在を支えに、めげず絵筆を握った。

 

そして昨年、堅実な努力が縁を結び、日本橋三越本店とそごう横浜店での個展開催に至る。自らと作品と鑑賞者、三者の生む空間や会話から得た気づきは多い。次の個展はその集大成として臨む。

 

「大学生の頃は“魚”を描く意識でしたが、最近やっと“絵”を描く意識になりました。」

 

経験と自信を積み重ね、ようやく辿り着いた「日本画家・阿部観水」のスタートライン。果てなき作品世界へ昇華された“水槽”のなか泳ぐ魚たちは、阿部を更なる飛躍へと導くはずだ。

(取材:秋山悠香)

 

《大山椒魚図》90.9×116.7cm

《大山椒魚図》90.9×116.7cm

 

《岩魚》33.3×53.0cm

《岩魚》33.3×53.0cm

 

アトリエの一角。水槽は全部で6本ほどで、制作スペースを圧迫しているそう。取材はもっぱら熱帯魚ショップで、アトリエの魚たちからは生物の”気配”を取り入れながらも、「純粋に飼いたい魚を飼っています」と笑みを零す。

アトリエの一角。水槽は全部で6本ほどで、制作スペースを圧迫しているそう。取材はもっぱら熱帯魚ショップで、アトリエの魚たちからは生物の”気配”を取り入れながらも、「純粋に飼いたいものを飼っています」と笑みを零す。

 

限られた制作スペースを有効に使うための可動式画材入れ。当初日本画特有の繊細な画材には難儀したが、一から色をつくるアナログな工程には楽しさ、愛しさすら感じたという。岩絵具の色彩と魚の質感は相乗的な深化した。

限られた制作スペースを有効に使うための可動式画材入れ。当初日本画特有の繊細な画材には難儀したが、一から色をつくるアナログな工程には楽しさ、愛しさすら感じたという。岩絵具の色彩と魚の質感、それぞれを追求することは相乗的な深化に繋がった。

 

(左)最近よくモチーフにしているアカハライモリ。シリケンイモリと1匹ずつ飼育している。 (右)一番大きな90cmの水槽にいる古代魚。何回か絵のモデルにも。 (下)この他にも小魚やナマズなど十数匹飼育する。またヒョウモントカゲモドキやアマゾンツノガエルなどの姿も。

(左)最近よくモチーフにしているアカハライモリ。シリケンイモリと1匹ずつ飼育している。
(右)一番大きな90cmの水槽にいる古代魚。何回か絵のモデルにも。
(下)この他にも小魚やナマズなど十数匹飼育する。ヒョウモントカゲモドキやアマゾンツノガエルなどの姿も。


 

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阿部 観水 (Kansui Abe)

 

1988年神奈川県生まれ、2012年武蔵野美術大学造形学部日本画学科卒業。13年個人邸能舞台老松制作、第21回三菱商事アート・ゲート・プログラム入選。15年コート・ギャラリー国立、16年アートスペース羅針盤、台北・Art Space金魚空間、19年日本橋三越本店、そごう横浜店にて個展開催。他グループ展多数。3月18日(水)~24日(火)西武池袋本店6階アート・ギャラリーにて個展「阿部観水日本画展―流れの景―」開催予定。

 

【関連リンク】阿部観水

 


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