夕暮れ時になると、私は麻張りの小さなスケッチブックを片手に、近くの公園へ散歩に出かけます。大きな池の周りをたくさんの木々や草花が彩り、四季を通じて様々な表情を見せてくれる美しい公園です。
子供たちの明るい声が響くにぎやかなその場所は、日暮れとともに、静かな落ち着いた空間へと姿を変えます。耳を澄ますと、風に揺れる木々の音や、虫の声、水辺で寛ぐどこからか来た渡り鳥の羽音など、様々な生命がこの公園という小さな世界に息づいているのが伝わってきます。
ばら色の空に私と小さな世界が包まれるとき、なぜか子供の頃を思い出し、懐かしく温かく、少しだけ寂しい、なんとも言えない気持ちに誘われます。
夜の帳が降りてきて、肌に触れる空気は冷め、木立の影は黒く染まり、ぽつりぽつりと家々の明かりが灯ります。そんなささやかな瞬間、新しいイメージがふっと浮かんできて、私はスケッチブックを開きます。
夕暮れ時の公園で、私が感じたノスタルジーが投影されているからなのかもしれません。私の作品は「どこか懐かしい気持ちになる」と仰っていただくことがあります。鮮やかにして派手すぎず、優しいけれど力強い、自然の美しさをそなえた日本画の画材を通じて、観てくださる方が少しでも温かい気持ちになれるような作品を描いていきたい。
そんなことを考えていたら、今日もまた日が暮れはじめました。
窪井 裕美 (くぼい・ひろみ)
1984年栃木県生まれ、日本美術院院友。2010年東京藝術大学美術学部絵画科日本画卒業、同年守谷美術賞受賞。12年同大学美術研究科修士課程絵画専攻日本画修了、修了模写は大学買上げとなる。同年、再興第97回院展に初入選。15年同大学院美術研究科日本画後期博士過程修了。20年栃木県さくら市ミュージアムにて収蔵作品5点を展示予定。
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新収蔵作品展 令和の風 ー変わるもの変わらないものー栃木県さくら市ミュージアム -荒井寛方記念館-