[フェイス21世紀]:長澤 耕平〈日本画家〉

2020年06月11日 13:30 カテゴリ:コラム

 

”身体化した都市の風景”

 

藝大のアトリエにて撮影

藝大のアトリエにて撮影

 

日本画で都市風景を主題にしてきた長澤耕平の代表作《ある都市の肖像》は、Google Earth の衛星写真をもとにしている。

 

260×576㎝という巨大な和紙に上空から俯瞰されたビル群がびっしりと描かれているが、Google Earth をいくら探してもこの都市の写真を見つけることはできない。なぜなら実地取材したときの足跡や記憶が作品上に無数のズレを生じさせ、ビル群をあたかも生きものように再構築しているからだ。

 

「有機体のごとく膨張し続ける都市と人間の生理が繋がっている実感が常にある」と語るように、コンセプトとしては"新陳代謝する都市"を掲げた建築におけるメタボリズムに似ているかもしれない。だが衛星写真から都市を抽出し、自らの足によってその身体性を取り戻し作品に再生成するスタイルは、サンプリングした既存の音源に肉声のラップをのせ新たな曲へ蘇らせるヒップホップの手法に近い。

 

《蛍坂》2020年 90.9×72.7㎝ 和紙・岩絵具・銀箔

《蛍坂》2020年 90.9×72.7㎝ 和紙・岩絵具・銀箔

《ある都市の肖像》によって俯瞰した都市風景に一区切りつけた長澤は、5年前に草花を主題とする作品を発表している。このときも花鳥風月とは無縁の道端で繁茂する雑草を描き、膨張する都市のイメージを重ねた。

 

近年は坂道、階段、堀などを主題とし、自ら"私小説的"と呼ぶ作品を手掛けている。現地を歩き回りあらゆるアングルを一画面に抽出した独特の画角からは、対象を徹底的に身体に取り込んだ作者の息づかいや熱が感じられ、まさに私小説的な発露を見出すことができる。

 

これまで都市をマクロやミクロの視点からさまざまな角度で描いてきたが、「自分の作品が海外でも通用するのか試したい」という。自らの足を使ったフィールドワークと活躍の場は、今後国境をも超えていくかもしれない。その日が来るのを楽しみに待ちたい。

(取材:南雅一)

 

《ある都市の肖像》2014年 260.0×576.0cm 和紙・岩絵具・銀箔・金箔

《ある都市の肖像》2014年 260.0×576.0cm 和紙・岩絵具・銀箔・金箔

 

《上野車坂》2019年 40.9×31.8cm 和紙・岩絵具・銀箔

《上野車坂》2019年 40.9×31.8cm 和紙・岩絵具・銀箔

 

(左) 「以前、道端の雑草を絵にしていた時期がありました。今はあまり描きませんが、生えている様子がいいと写真を撮ります」 (右) 「緑青という天然の鉱物を原料とした鮮やかな緑の絵具があります。フライパンで火にかけると酸化して黒変していくので、好みの色味になるまで焼いたり、再度鮮やかな緑青や群青を混ぜたりします。このような方法でお店では売っていない色を出すことができます」

(左) 「以前、道端の雑草を絵にしていた時期がありました。今はあまり描きませんが、生えている様子がいいと写真を撮ります」
(右) 「緑青という天然の鉱物を原料とした鮮やかな緑の絵具があります。フライパンで火にかけると酸化して黒変していくので、好みの色味になるまで焼いたり、再度鮮やかな緑青や群青を混ぜたりします。このような方法でお店では売っていない色を出すことができます」

 

《雨後》2019年 90.9×72.7cm 和紙・岩絵具・銀箔

《雨後》2019年 90.9×72.7cm 和紙・岩絵具・銀箔

 

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長澤 耕平 (Nagasawa Kohei)

 

1985年東京都生まれ、2010年東京藝術大学美術学部絵画科日本画専攻卒業。12年同大学大学院美術研究科絵画専攻日本画研究分野修了。15年同大学院美術研究科博士後期課程美術専攻日本画研究領域修了・博士号(美術)取得。19年同大学日本画研究室非常勤講師。創画会准会員。16年銀座スルガ台画廊、18年西武福井店美術画廊、19年日本橋三越本店・西武池袋本店にて個展開催。12年修了制作東京藝術大学買い上げ・第39回創画展奨励賞、13年第40回創画展奨励賞、15年野村美術賞・修了作品東京藝術大学収蔵、17年第2回Will+s展そごう西武賞、19年第45回春季創画展春季展賞・第46回創画展創画会賞。

 

【関連リンク】長澤 耕平

 


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