[フェイス21世紀]:澁澤 星〈日本画家〉

2020年07月20日 10:00 カテゴリ:コラム

 

”古くも新しい色を纏って”

 

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「小学生の頃、ダ・ヴィンチの水の素描を見て、自分には水なんて描けないと感じました。でも、描けるようになりたいと思ったのが高校生の頃。自由に描くために、まず技術が必要でした」

 

日本美術院院友・澁澤星が藝大への進学、画家としての将来を見据えたのは高校時代。写実力を得るため選んだ日本画はその画材――色を重ねるほどドライになる質感や洗い流した際に生まれる紙の新しい表情が、理想とする表現に合致した。抑制の効いた色調にアンティークの如き風合いを湛える澁澤の日本画は広く注目を集め、7月22日からは銀座三越で個展を控えている。

 

さまざまなモチーフを経て辿り着いた人物画。描く楽しさの根幹にあるのは、人間への興味関心だ。藝大助手の仕事を通じ人との接点が増えたこともまた、「人物に個性がある」と評される表現を豊かなものにしていく。

 

在学中にはトルコとフランスへ留学。現地では学校に通わず作品や人との触れ合いから学ぶことを選んだ。「偶像崇拝が禁じられているイスラム圏では、人物を描くことすら許されない。一方キリスト教圏では人物像に神を重ね崇えています。人物を使った美術作品を通じたコミュニケーションに、面白さを覚えました」観者がいてこその美術、澁澤はその時々に感じたこと・描きたいものを画面に刻み、イメージの共有を追求し続ける。
 

《母と子》33.3×33.3cm

《母と子》33.3×33.3cm

 

東近美、庭美、世田美……小さい頃から美術館が好きだった。だからこそ、いずれ美術館で展覧会を――。院展でプレッシャーを糧に大作に挑みながら、志を同じくする仲間たちと所属の垣根を越えた発表の場をつくる話も進んでいる。
 

着実に歩みを進め、自由に近づいたからこその不自由に苦心する一方、それを楽しむ自分もいる。人と人との繋がりがある限り、澁澤の作品世界はその煌めきを増していくだろう。

(取材:秋山悠香)

 

《A Nun》40.9×24.3cm

《A Nun》40.9×24.3cm

 

(左)《form》33.4×24.3cm (右)《PHANTASMAGORIA》90.9×72.7cm

(左)《form》33.4×24.3cm
(右)《PHANTASMAGORIA》90.9×72.7cm

 

現在助手を務める藝大内のアトリエ。緊急事態宣言下は入構ができず、画材を持ち帰り自宅の制作を余儀なくされたそう。

現在助手を務める藝大内のアトリエ。緊急事態宣言下は入構ができず、画材を持ち帰り自宅での制作を余儀なくされたそう。

 

曾祖母の代からの家財道具、母の勤務先の研究所、幼少期から古さを帯びたものが身近にあった。その影響もってか、どこか古びた落ち着いた色が作品の基調となっている。

高祖父の代からの家財道具、母の勤務先であった研究所の資料や資材、幼少期から古さを帯びたものが常に傍らにあった。今も古びた色やクラシカルな雰囲気に魅かれ、その嗜好は作品にも伺うことができる。

 

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澁澤 星 (Shibusawa Sei)

 

1983年東京都生まれ、2016年東京藝術大学大学院美術研究科博士後期課程美術専攻日本画研究領域修了、博士号(美術)取得。2013年第68回春の院展初入選、翌14年再興第99回院展初入選。同年第7回秀桜基金留学賞に採択されトルコとフランスに渡航。これまで銀座・小林画廊を中心に個展・グループ展、内外のアートフェアへの参加多数。7月22日(水)~28日(火)銀座三越7階ギャラリーにて個展開催予定。現在、東京藝大日本画教育研究助手、日本美術院院友。

 

【関連リンク】澁澤 星

 


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