近現代の文学や伝説、童話などに着想した作品作りをすることが多いのですが、自分で詩を書くこともあります。いずれにせよ、絵より先に文章やタイトルがあり、それに沿ってモチーフやポーズを決め、画面構成していくという方法を採っています。
例えば「Letters」というテーマで個展をしたときは、書簡体の小説を含めた様々な手紙の文章をもとに作品を制作しました。
手紙文を用いた文学作品や有名な人物間の往復書簡、想像上の友人に宛てた手紙という形をとる『アンネの日記』など、思いつくまま羅列し、特に〈作者自身の言葉による誠実な語りかけ〉を感じるものに絞っていきました。
印象に残る文章は不思議と絵のイメージが湧いてくるのですが、それを固めるために一から読み直したりもします。
ただでさえ時間の足りない締め切り前に読書をするのは効率が悪く思えますが、絹本に薄塗りという修正の効きづらい技法で描いているため、制作前のコンセプトの整理は欠かせません。
以前の手法はこれとは全く違ったもので、描きたいモチーフが先、タイトルをつけるのは最後でした。しかし、制作中に方針が定まらず迷走してしまったり、伝えたいことが整理されていないために絵の訴求力が弱いように感じていました。
何年かの試行錯誤ののちに、絵という非言語の表現手段を扱っていても、何かを伝えたり共感したりするときには、表現者と受け手の間に「言葉」という共通の基盤があった方がいいと考えるようになり、現在のスタイルに落ち着いてきたのです。
1974年東京都生まれ。1997年東京藝術大学美術学部日本画科卒業、卒業制作サロン・ド・プランタン賞受賞。1999年東京藝術大学大学院美術研究科絵画専攻日本画専攻修了、修了制作紫峰賞受賞。9月23日~28日日本橋三越本店「―だれかの記憶の物語― 山口暁子 日本画展」開催予定。
【関連リンク】山口暁子(公式ホームページ)