NFTの市場が、大変なバブル状況になっている。専門家でない私はあまり詳細に説明は出来ないが、この波はアートの市場を巻き込み始めている。
つい2、3カ月前にクリスティーズで、デジタルワークが75億円で落札されたニュースが話題になった。作者はBeeple(本名:マイク・ヴィンケルマン)で、落札されたのは彼のデジタルアート作品《Everydays-The First 5000 Days》である。見てみると、とても75億円の作品には見えない。興味を持ってNFTのサイトを見てみると、CGのような作品が1000万円レベルの金額で売買されている。
NFTは「Non Fungible Token(非代替性トークン)」というブロックチェーン技術によって成り立っている、仮想通貨と仮想の市場である。この通貨がインフレになっていることは不思議ではない。これまでもビットコインが大変な値上がりをしている。しかしそれがアートとどう結び付くかが、これからの問題だ。
私が思うにまずは、この新しい通貨で買えるアートが必要で、それはこのプラットフォームの性質上、デジタルワークであることが一番適している。そしてNFTという技術の性格上、複製できるデータであるデジタルアート作品を、この一点だけがオリジナル作品で、その持ち主は誰かということを厳密に規定できる。そこで、デジタルアートなのに高額の値段がつくという現象が生じるのだ。
しかし、現在は作品の質が高いとは言いがたい。チープな趣味のコンピューターグラフィクスのように見えるものも多い。この問題は、NFTの関係者がアートの事を知らず、アート関係者も新しいテクノロジーについて疎いから生じていることではないだろうか。
今後、デジタル作品の質の向上が急務のように思えるが、その方法は両者がもっと対話を重ね、互いに文脈を学び、また本当に質の高い美術を沢山見ることで溝が埋まるのではないかと思う。もっとも新しい技術、マーケットから新しい美学が生まれてきたのだから、何も同じ価値基準に行き着かなくてもいいと言われればそれまでだが。
NFTの二つ目の可能性に、既存のリアルな美術作品、例えばピカソの油彩画が真作であることの証明を高精細な写真と共に登録することで、真贋の問題に極めて信頼性の高い保証を与える事が出来るようになるだろうということだ。この使い方は基本的に著名な作家で高額の作品に向いている。常に真贋の問題にさらされるのは、そのような作品だからだ。このやり方が普及すれば、偽物かどうか心配することが少なくて済むようになるだろう。
三つ目の可能性は、市場で転売される時に、その値上がり分利益の一部を作家に還元するルールを契約で義務化して売買することができるのではないか、というものだ。これまで何故コレクターが作品価格の値上がり益を全部取ってしまうのか、何故アーティストにはセカンダリーの利益は分配されないのか、という不満がアーティスト側に多々あったのだが、この方法が定着すれば、破綻気味の著作権とは違う知的財産の効率的で信頼性の高い利益再分配が出来るようになるだろう。
私が少しNFTの特性をリサーチした結果、アートにとっては上記3つの項目が一番重要そうだが、今後この市場が発展するにつれて新しい使い道、あるいは新しいマーケットシステムなどが生まれるかもしれない。また他の国のNFTマーケットも爆発気味で中国でもアートが投機的な売買の対象になっているようである。
ちょうど、記事を書きおえたら、サザビーズからデジタルアートのオークション案内が来た。[Curated NFT Sale: Natively Digital ]というタイトルだ。日本人では池田亮司の作品が出品されている。まだ奥が深そうな事項なので近々、このテーマでフォーラムをやって見たいと思っている。