制作に欠かせぬものって何だろう。そう思いアトリエを見回すと、iPadが目に入った。
私が取り組んでいる油彩シリーズ「うさぎのギアス氏と相棒の犬の旅」は、空想と現実が入り混じった世界が舞台である。そこへ擬人化されたうさぎと犬が登場するというものだ。
私は実際に旅をした経験を元に制作することが多いが、iPadは撮り溜めた旅の写真やアイデアメモ、スケッチなどを整理したり、記憶が曖昧なものの形を調べる時にはもってこいである。写真を紙焼きせずとも見られるので、現像に回した際の意図せぬ出来映えやインクがすぐ切れるプリンターに泣かされることがなくなった。また、ポートフォリオを引っ張り出さずとも好きな時に過去の自作を見られるし、展示が近づけばSNSやブログへ宣伝できる。ノートパソコンより軽いため持ち運び易く、外付けのキーボードをつければ文章だって打ちやすい。本当に優秀な助手である。
ここまで書いたものを読むと、まるでAppleの回し者のようだ。しかし、これらのメリットは他のタブレットでも変わらないだろう。未使用の方がいらしたら是非お勧めしたい。
ただ、時々不安になる。私の武器は古来より伝わる油絵の具と生身の手だ。一方で追いかけるのがアホらしくなるような速さで進化する助手。そのうちコイツは私に代わって絵を描き出してしまうのではないか。便利だと重宝しつつも、お願いだからこれ以上進歩しないでくれ!と念じるこの頃である。
1982年千葉県生まれ、武蔵野美術大学造形学部油絵学科卒業。2018年「第53回昭和会展」ニューヨーク賞、「ザ・コンテスト・イン・ニューヨーク」グランプリ、2019年「白日会第95回記念展」白日賞・大宥美術賞。現在白日会会員。
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