東京ではやっと緊急事態宣言が明け、青森県でも県有施設の緊急対策が終了し、美術館が再開した。
まず弘前れんが倉庫美術館だが、ここのところ2回ほど弘前らしくりんごがテーマの展覧会をシリーズで続けている。前半が4月10日から8月29日までで、「りんご宇宙―Apple Cycle /Cosmic Seed」というテーマだったが、後半は「りんご前線―Hirosaki Encounters」展と銘打って、10月1日に開幕した。2022年1月30日まで公開される。
この美術館の展示の最も重要な要素は、展示室最後部にある大きな吹き抜け空間である。この空間に何をどう展示するかが、展覧会の印象を大きく左右する。今回は、前回と同様ケリス・ウィンエヴァンスの巨大なネオン作品を継続して展示し、その他の作品を入れ替えて、テーマの継承と変化を表している。
ゲストキュレーターは三木あきこ。弘前、そして津軽の歴史や文化風土を詳細に調べ、また現地の人たちの多様な協力を得て、今回は前回よりもさらに地元と深く関わる内容となっている。その背景を彼女は、りんごのテロワール(土壌:フランス語)という言葉で表現している。
作家の佐野ぬいは弘前市の名誉市民でもある著名な女性画家で、1950年代の初期の作品から多様な青を駆使する事で知られるが、今回はこの美術館のために新作も披露している。
一方、一番若手の斎藤麗は、パリ在住だが弘前生まれ。ケリスのネオン管の下がる吹き抜け空間で床の上に球体、白い石膏、その他細々としたオブジェのインスタレーションを繰り広げ、ケリスの垂直方向の動きと対比するように水平方向の動きを作り出した。
東京在住の小林エリカは、弘前で軍医であった祖父や同地に生まれた父の足跡を訪ね、素描、テキスト、オブジェ、映像で家族の歴史と街の歴史を綴る詩的なインスタレーションを展開した。弘前市在住の塚本悦雄はアトリエを再現し粘土、石、木、などを展示し、津軽特有の金魚やマメコバチなどを主題にした作品を紹介。今後、公開制作も行う予定。
最後の村上義男はすでに物故作家だが、82年から弘前に居を移して活動していた。知的で緻密な構成による独自の作風を見せ、気象図、記号、釘などを使いながら民俗文化と前衛表現の関係を見せる資料群も展示して、地域の文化歴史と現代の美術の関係を描いている。
一方、十和田市現代美術館も10月1日から2022年1月10日までの予定で、10周年の「インタープレイ」シリーズを引き継ぎながら、展示を一新した。内容は、常設展示作家であるトマス・サラセーノの個展である。サラセーノはアルゼンチン出身だがドイツ在住で、バルーンや雲のような彫刻で知られるが、最近は蜘蛛の糸に惹かれてきた。そして今回は日本のジョロ
ウグモの伝承などにインスピレーションを得て、新作3点が公開されている。展示物は、バルーン、素描、音の表現、などを交えた多様な展開で繊細で透明な感覚が、鋭敏になった観客の心を震わせる。街の中に設置された「目」の秀逸なインスタレーションと合わせて、是非見ていただきたい。