[フェイス21世紀]:新藤 杏子〈画家〉

2022年02月25日 17:00 カテゴリ:コラム

 

”いきものたちの営みを描く”

 

アトリエにて

アトリエにて

 

新進作家の登竜門「FACE2022」のグランプリに、新藤杏子が選ばれた。

 

思いがけない吉報に驚きながらも、鏡を見つめる息子の姿からエコーとナルキッソスのギリシャ神話に着想を得た《Farewell》は、これまでにない手応えがあった。

 

「以前からヒトを描くのは好きでしたが、背景を同じベクトルで描けず、悩んでいました。今回の作品でやっと、ヒトと背景を同列で描けるようになった実感があります」

 

《Farewell》2021年 194.5×162.0cm 油彩・キャンバス 「FACE 2022」グランプリ

《Farewell》2021年 162.0×194.5cm 油彩・キャンバス 「FACE 2022」グランプリ

 

小学生の頃の夢は漫画家。手塚治虫の漫画に感銘を受け、授業中でも構わず絵を描いては怒られた。本や映画、歴史も好きで、高校では考古学研究部に所属していた一面も。

 

美大への進学は、絵に限らずモノ作りをしたい思いが強かった。油彩、水彩、更には映像まで、その表現手法は多彩だ。当時はポルケにリヒターとドイツの作家に惹かれたが、今の憧れはポール・マッカートニー。ビルボードで輝き続ける生涯現役の生き様に、画家として目指す姿を重ねる。

 

生活や営みからモチーフを抽出し、己の作品世界へと再構築する新藤。なかでも身近な存在から空想上の生物までさまざまな「いきもの」は、特異な存在感を放っている。当初は何もないところから描いていたが、10年ほど前の入院生活でまわりの患者たちを描いたポートレートをきっかけに、現実と作品とを結びつけるようになった。虚空を見つめる瞳、情報の削ぎ落された表情――新藤が描く「いきもの」は、初めて出逢う誰かのようで、どこか懐かしさを覚える誰かでもある。

 

息子を出産してからは、考えるよりもまず描く。限られた時間を工面して制作に励み、最近は宮沢賢治作品や東北の民俗学を題材とした作品、また映像制作への意欲も再燃している。目標は美術館での個展開催。現実と非現実の狭間を浮遊する「いきもの」たちが大きな空間に遊ぶ展観を、楽しみに待ちたい。

(取材:秋山悠香)

 

《12月16日》72.7×60.0cm

《12月16日》72.7×60.0cm

 

《胡乱な午後》97.0×130.3㎝

《胡乱な午後》97.0×130.3㎝

 

TEZUKAYAMA GALLERYでの グループ展「星の百年」(2020年)展示風景で

TEZUKAYAMA GALLERYでのグループ展「星の百年」(2020年)展示風景

 

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新藤 杏子(Shindo Kyoko)

 

1982年東京都生まれ、2007年多摩美術大学大学院修了。これまで銀座ギャラリーフォレスト、gallery Trinity、YUKI-SIS、Gallery TAGBOAT、上海Shun Art Galleryにて個展開催。都内を中心にグループ展多数。イタリアや台湾のアートフェアにも参加。東京ワンダーウォール、シェル美術賞等で入選を重ね、FACE展では14年・17年の入選を経て22年グランプリを受賞した。現在SOMPO美術館で開催中の「FACE展2022」、25年開催予定の「絵画のゆくえ2025」に出品。今年10月に日本橋YUKI-SIS、12月に台湾YIRI ARTSで個展開催予定。

 

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