[フェイス21世紀]:亀山裕昭〈洋画家〉

2022年03月25日 17:00 カテゴリ:コラム

 

”MORE HUMAN THAN HUMAN”

 

メタルバンド・嘔吐リバースのベーシストとして2ndアルバム『曲げない、めげない、平賀源内』目下制作中。 ©KAWAKUBO MITSUO

メタルバンド・嘔吐リバースのベーシストとして2ndアルバム『曲げない、めげない、平賀源内』目下制作中。
©KAWAKUBO MITSUO

 

はじまりは些細なこと。

 

虫歯予防週間の絵が表彰されると、母親がとても喜んだ。
次も一所懸命描く。
下水道コンクールポスター“見えないところの力持ち”は大きく引き伸ばされ、地元石巻のランドマークに。前を通るたび笑顔になる母。
 
ただそれが嬉しかった。

 

油彩による風景画を主たる表現に据える亀山は、自身の仕事を「最も個人的な美意識(記憶)は日常の時の経過によって濾過/醸成され、一層輝きを増していく。その光景を描きおこすこと」と語る。

 

《bus,stop》2018年 123×200㎝ 第94回白日会展出品

《bus,stop》2018年 123×200㎝ 第94回白日会展出品

 

雪の上に伸びる長い影、潰れて久しいガソリンスタンド、遠い山並……何気ない景を描出する亀山の徹底した美意識(記憶)は呼び水となり、視る者は皆私的な記憶と結びつけ反芻する。
丁寧だが細緻ではなく、どこか夢心地な補完の余地を残す作品を前にすると、名著『物質と記憶』の深奥において、いかに場所を持たぬものに場所を与えるかという問いを思索したベルクソンが想起される。平面に三次元以上の感覚を求める亀山の絵画世界は、物質としての完結を目的とせず、記憶の触媒としてイマージュを掻き立てる場を呈する。

 

左:《老婆心》 2010年 112.1×145.5cm 宮城県・宮城郡松島町 右:《瞬き》 2021年 50.0×65.2cm 長野県・東御市 明神池駐車場

左:《老婆心》 2010年 112.1×145.5cm 宮城県・宮城郡松島町
右:《瞬き》 2021年 50.0×65.2cm 長野県・東御市 明神池駐車場

 

貸画廊初個展から数えて20年――。東日本大震災では自らを育んだ景全てが失われ、描く意味を見失った。先日15年務めた会社を辞し独立。映画『マスカレード・ホテル』では作画を担当し、メタルバンドで誰より激しく頭を振る。すべてに全力で取り組んでいると世界は少しずつ広がり、酸いも甘いも嚙み分けた末今日がある。

 

4月には森の美術館で個展を控え、初の作品集も刊行される。
「画集があれば小学生の娘がいつかおばあちゃんになった時、私の父親はこういう人だったって言えるじゃないですか」

 

不器用にでも愚直に、力いっぱい命を燃やす亀山は、これからも揺さぶり続けるだろう。
記憶や心、或いは世界をも。

(取材:坂場和仁)

 

.

亀山 裕昭(Kameyama Hiroaki)

 

web41979年宮城県生まれ、2002年岩手大学教育学部特設美術科卒業。04年広島市立大学大学院芸術学研究科油画専攻修了。受賞、個展・グループ展多数。現在白日会会員/アトリエ・ダレル代表。六本木・国立新美術館にて開催中の「第98回白日会展」(3月23日~4月4日)にてSOMPO美術館賞受賞。22年初作品集『亀山裕昭画集―致景―』を美術年鑑社より刊行。同名の個展を4月1日から6月26日まで森の美術館(流山)にて開催する(※事前予約制)。

 

【展覧会】亀山裕昭展 致景

【会期】2022年4月1日(金)~6月26日(日)

【会場】森の美術館(千葉県流山市大畔315)

【TEL】04-7136-2207

【開場】10:00~16:00(入館は閉館の30分前まで)

【休館】月・火曜(ただし5月2・3日は開館)

【料金】一般600円、中高生300円、小学生以下無料 ※事前予約制

【関連リンク】森の美術館  亀山裕昭Instagram

 
Amazon詳細

 


関連記事

その他の記事