散歩が好きで、天気の良い日は1時間ほど近所をブラブラと歩いている。コロナ禍でずいぶんと大人しくなったが、以前は電車移動もしながら様々な街を歩き回ったものだ。
散歩では特に目的地は決めない。
気の向く方へ行く。
おかげで家の近所についてはどの道がどこに繋がっているのか、かなり細かく把握しているつもりだ。
たまに買い物などで妻と歩く時、「このいい感じの裏道はあの大通りに繋がっているのだ」などと自慢げに話すが、妻はそんな私を「裏道マニア」といって笑う。
さて画材考であるが、この散歩癖を制作のインスピレーションの元だと主張するなら、それを画材と呼ぶには無理があるだろうか。散歩は制作に役立つ様々な効果を与えてくれる。
まず、気分転換である。私は家にこもっていると頭も体もなまってしまう。考えが凝り固まってしまいどうにも面白くなくなってしまう。創作活動には柔軟な考えや発想の転換が欠かせない。それを得るためにも散歩はとても有効である。
次に良い景色に出会う機会が得られることである。私は風景をモチーフにした絵を描いているため、良い景色に出会うことが創作において非常に重要な意味がある。出会った風景はよく観察するようにしている。空の色のグラデーションがどのように変化していくか、遠くに見える建物がどのように見えるかなど。さらに見た目だけでなく、その景色を五感で感じることが大切だと考えている。どんな風を感じたか、匂いや音はどうだったか、自分がどのように体を動かしたかなど、しっかりと感じるようにしている。
絵は視覚のみの再現では意味が無いと思うためだ。
最後に散歩の効果として、人々の生活を想像することの楽しみがある。あくまで散歩なので人の生活圏を越えることはないため、どこへ行っても人がいる。人に会わずとも建物や乗り物はある。そこにいる人々がどのように生活しているのか、何を考えているのかを想像することはとても楽しい。
創作活動の原点はコミュニケーションだと思う。
人が何を見てどう思うのか、自分はどう思ったのかをよく考えることが大切である。
以上が私の思う散歩の効果である。
考え込んで立ち止まるよりも、気ままにぶらぶらと歩きまわるように楽しんで絵を描きたいと思う。
吉田 大和(よしだ・やまと)
1984年東京都生まれ。立教大学文学部英米文学科卒業、多摩美術大学造形表現学部造形学科卒業。2011年独立展初出品初入選。色彩豊かな表現を得意とする油彩・水彩画家。海、川、空などの自然物、都会の高層ビル、人物など、身の回りにある親しみやすいものをモチーフにする。目に見えない存在感とその儚さを表現し続けている。個展・グループ展など出品多数。
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