[画材考] 画家:清水健太郎「油と水」

2022年10月25日 12:00 カテゴリ:コラム

 

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水性アルキド樹脂絵具「アキーラ」と油絵具

 

雲や霧などの「形にならない形」の表現がどうもしっくりこない。

 

これまで油絵具で描いてきた私のモチーフは巨大な機械的建造物などが多く、形態が明確で細部のディテールを描くことで存在感が増していくのが楽しく、そこは好んでよく手が進む。一方、建造物を取り巻く雲や霧になると、描き込むほど意図的な形になり、必要以上に存在感が増してしまうなど違和感のある表現に陥りがちである。

 

数年前に英国のナショナルギャラリーを訪れた際、ターナーが描いた水彩画に目を惹かれた。水彩絵具ならではの流動性や偶発的な滲みやボカシを巧みに使い、空気の層や大気の動きを孕んだ風景描写に釘付けになった。それは等伯の「松林図」の様な水墨画などとも通じる、東洋人にも親しみのある表現でもある事に気付かされた。

 

《光の羽音》2021年 72.7×60.6cm

《光の羽音》2021年 72.7×60.6cm

 

油絵でもこのような表情が出せないだろうか?と模索していた時に、以前購入した(株)クサカベの「アキーラ」という水性アルキド樹脂絵具に目が止まった。

 

当初、現代的な新しい油絵具の代わりになる製品と期待したが、私が望んでいた感触とは異なりアトリエの隅に置いたままにしていた。しかし、水による独自の豊かな表情を生み出し、油絵具との相性も良い素材として再び手に取ってみると、なかなかユニークな手応えを感じた。

 

その後油彩との組み合わせ方や下地との相性などを工夫することで、少しは私なりに求めていた「形にならない形」に近づいているようで楽しい。そして「油と水」と言った素材の共存が、西洋と東洋の表現をどこか繋げているように感じる点も気に入っている。

 

(左)《夜を越えて》2021年15.0×41.0cm (右)《夜明けへ漕ぐ》2022年 90.9×72.7cm

(左)《夜を越えて》2021年15.0×41.0cm    (右)《夜明けへ漕ぐ》2022年 90.9×72.7cm

 

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清水健太郎写真01
清水 健太郎(しみず・けんたろう)
1972年東京都生まれ、武蔵野美術学園卒業。現在二紀会会員、日本美術家連盟会員、武蔵野美術大学 講師(通信教育課程油絵学科)、渋谷ファッション&アート専門学校 専任教員(絵画コース)。
99年より二紀展で出品を重ね、都内で個展・グループ展多数。近年は旧約聖書の創世記に登場する「バベルの塔」の住人達のその後をテーマに、物語性を感じさせる幻想的な作品を手掛けている。
10月19日(水)~31日(月) 国立新美術館「第75回記念二紀展」に出品中。
 

【関連リンク】画家 清水健太郎 Official Web Site

 


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