”描かないこと”の方へ
様々な家具が並ぶ人気のない風景を、日本画の技法で表現する画家・杉山佳。
活版印刷で使用される活字を収納していたプリンタートレイの枠組みを曼荼羅に見立てて景色を構成するなど、その手法はトリッキーかつユーモラス。
だが、東京藝大で学生をしていた頃は、今とは逆に写実に徹する日々。
上手い絵を意識し、デッサンを基に堅実な写実にこだわっていた。
次第に、目に見えるものをただ忠実に描くことに限界を覚えた。それでは単なる対象の再現でしかないのではないか? では、自分は何を描くべきか?……
迷いの最中での卒業制作だった。屋根瓦一つ一つまで精密に描き込んでいた杉山は、描けば描くほど、それが単なる色面に還元されていく感覚に囚われた。その一方、何も描かれていない道の存在感はかえって際立っていた。
「――むしろ、描かない方がいいんじゃないか? とその時思ったんです」
以来、杉山は“不在”というテーマに接近。あるものによって別の何かを表現しようとする日本美術の“見立て”や、古今東西の絵画からの“引用”を駆使し、少ない描写で多くを表現する“描かないこと”の方へ歩み始めた。
――肖像画としてイスを描く、と杉山は自作を形容する。
いわば、人物のない肖像画。無造作に配置された家具類は、そこにいない誰かの存在を立ち上らせる。新しい表現であるはずなのに、慣れ親しんだ感情を覚えるのは、杉山の作品が、日本美術の表現を踏襲しつつ、そこに現代性を溶け合わせているから。
“描かないこと”を探求してきた杉山はいま、その関心を再び“描くこと”の方へ向けている。しかし、その意味合いはかつて写実を志していたころのものとは明確に異なる。
“不在”を追求してきた杉山は、どのような“存在”を描くのだろうか。その歩みに興味が尽きない。
(取材:原俊介)
杉山 佳(Sugiyama Kei)
1988年奈良県生まれ。2015年東京藝術大学美術学部卒業。17年同大学院修了。19年「第45回東京春季創画展」春季展賞。現在東京藝術大学日本画教官室教育研究助手、創画会会友。
【関連リンク】杉山佳公式ホームページ