私はいつも身近なものを描いている。
庭には季節ごとに好きな花を植え、シンボルツリーのミモザは毎年2月になると黄色く可愛い花を咲かせる。子供が生まれると自然と花や幼い子を描くようになった。日々の小さな幸せを見つけ、ゆっくりと流れる時間が心地よい。
制作や子育ての傍ら、苦手だったはずの裁縫に興味を持ち、毎日子供服を作った。綺麗な生地の色や柄に惹かれた。育児中は制作に集中できず、作家としては遠回りしていると感じられる期間だが、新しい趣味の世界は、イマジネーションに広がりを持たせてくれたと思っている。また、家にいることも多いため、インテリアにも興味を持った。大好きなアンティークのジョーロやレースなどを描くこともあった。子供の玩具や公園の遊具など、自然と画面の中には、その時目に触れるものが作品のモチーフになっていった。
ある時、初めて私の個展を訪れた友人が、画廊に入るなり涙が出たと言ってくれた。その訳は聞いていないが、とても嬉しく心が満たされたのを覚えている。その時、絵を描く理由が少し分かったような気がした。
決して、具体的なことを日記の様に書き留めたい訳ではなく、自分の幼い日にも重ね合わせて、大切にしたい想いや情景のようなものを描きたいと思っている。環境や状況の変化の中で、自然と積み重ねてきた想いのようなものを。
見る人の心に響くような、留めておきたい「しあわせのカタチ」を模索し続けている。
阿部 千鶴(あべ・ちづる)
1970年広島県生まれ、95年東京藝術大学大学院修了。現在創画会准会員。96年創画展に初入選、以降毎年出品・入選。同展にて奨励賞、創画会賞受賞。
やさしい筆致と色遣いによって、夢見る少女やカラフルな花々など、幸福感溢れる世界を描出する。
1月6日(金)~2月12日(日) 佐藤美術館「阿部千鶴日本画展-Flower palette-」開催。
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