”陶芸家としての現在地”
3頭の大型犬に、魚、亀、鳥、蛇、イグアナ、トカゲ……
北郷江がともに暮らす生き物は多種多様だ。「動物も人間と同じようにそれぞれ個があると、小さい時から感じていました。声や足取り、瞳の動き、言葉はなくとも、今は彼らが何を言っているか分かります」。
彫刻家の父と油絵を嗜む母のもと「欲しいものは作ることができる」と言われ育った。10代の頃は音楽活動や演劇にも勤しんだが、何かを描いたり作ったり、創作は当たり前の日常として続けていた。
立体物が作りたい、絵も描きたいという欲望から、予備校では藝大工芸科を目指し一浪を経て入学。各分野の講座を受けた中で「陶芸だけが、予想外のことばかりで上手くいかなかったんです」、納得できるまでやめられない、と陶芸の道に入った。
北郷の手が生む陶のオブジェは、擬人化したり感情を持たせたり、動物と人間を重ねる部分がある。短編が添えられた作品も多く、その物語性は人の想像力を喚起する。
彫刻とも見紛われる造形は、父がポツリと言った「意味のないものを作ろう」という言葉にもどこか通底し、工芸の「用の美」とは一線を画すかもしれない。それでも、人を豊かにするために工芸が生まれたのなら、人の暮らしに寄り添い心を癒すことを大事にする自身の創作も同じだと、北郷は語る。
以前は人を楽しませること第一だったが、近年は自分のペースで、身の回りによく目を向け、制作に向かう。美術教育の講師を務め、陶芸教室を営む今、「歳を取っても土をこねて作品表現をしていく世界がある。そのことをたくさんの人に伝えていきたい」と、己の立ち位置を見つめる。
コロナ禍と出産を経て迎える次の個展では「人と家」「生と対話」をテーマに私生活の中で感じたことをかたちにする。土のぬくもり、命のぬくもりを纏う北郷の作品は、誰しもの手に馴染むものであり続けるはずだ。
(取材:秋山悠香)
北郷 江(Kitago Kou)
1989年千葉県生まれ、東京都育ち。父は彫刻家の北郷悟。2012年米タコマに留学、シアトルにて個展。11年・13年にISCAEE国際シンポジウム参加(日本・トルコ)。15年東京藝術大学大学院美術研究科工芸専攻陶芸研究室修了。国内では14年Aquvii Art THE TERMINAL OTOE原宿、17年日本橋三越本店、20年京都 大雅堂で個展開催。その他グループ展多数。19年とらや東京出店150周年記念の虎作成。10月12日(木)~22日(日)南青山 アートスペース・モルゲンロートにて個展開催予定。