[画材考] 洋画家:金澤隆二「野良犬の牙」

2023年09月25日 11:00 カテゴリ:コラム

 

《Xの3・11》(部分) 顔は石膏によるライフマスク、目元にはマチ針を刺している

《Xの3・11》2023年 116.7×182.0㎝(部分)ミクストメディア                   ――顔は石膏を用いたライフマスク、目元にはマチ針を刺した

 

専門的な美術教育を受けておらず、子どものお絵描きの延長線上に私はいる。
画材は麻布、絵の具のほかにドリルやナイフ、針と紐、金属、石膏、動物の骨などなんでも使う。

 

49年前に東北から上京し、16歳から工場で働き始めた。
自分の生きる理由が欲しくて初心者の入門書を買い、強い劣等感から独学で絵を描き始めた。
皆と同じようになりたくて、勉強そして絵を描いてきたが、後追いばかりしている自分に気がつきやめた。
もっと自由で、自分だけの絵画があるはずだと考えた。

 

帰省した時、農業で使う汚れた麻布に穴があき、それを母が大事そうに縫っていた。
「この上に絵を描きたい」と思い、また工場で長年職人として働いてきた勘や知識、技能も作品に活かしたらコンクールで受賞した。

 

《●●●●●●●●》

《10月の雨》 2019年 145.5×89.4㎝ 油彩

 

その後、自分に課した「24番勝負」(※月に1度50~130号のコンクールに挑戦するのを2年間続けること)では、数多く受賞したが、目標の公募展で最高賞、コンクールで大賞をいただいたころには心を病んでしまった。
原因は、睡眠時間を削っての過度な制作だけでなく、仕事や家族、友人の死など問題だらけのプライベートにあった。

 

左:《●●●●》 右:《●●●●》

左:《生と死の晩餐》 2020年 90.9×116.7㎝ 油彩
右:《殺害された森の少女》 2021年 116.7×80.3㎝ ミクストメディア

 

10年制作から離れたが、数年前からまた描き始めた。

 

生まれ育った小さな町は3・11の津波で消え、原発事故が起きた。
あの神も鬼も存在しない管理区域内で、私は見えない圧倒的な力に怯えながら仕事もしてきた。

 

《●●●●●●●●》

《管理区域》 2020年 65.2×90.9㎝ 油彩

 

無様な私の人生も今では個性だと思え、足元に自分だけの絵画がある。

 

制作に使用している道具たち。これもほんの一部に過ぎない。

金澤が制作に使用している道具たち。これもまだほんの一部だ。

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金澤 隆二(かなざわ・りゅうじ)
金澤隆二先生近影
1957年岩手県生まれ。74年工場で働きながら独学で絵を描き始める。「第41回北陸中日美術展」(大賞)、「第10回青木繁記念大賞展」(特別賞)、「雪梁舎フィレンツェ賞展」(特別賞・ビアンキ賞)、「第28回日本の自然を描く展」(冠賞)、「2019年日本の抒情歌を描く」展(最優秀賞)、「公募日本の絵画2020」(諏訪敦賞)など、公募展での受賞多数。現在無所属。

「令和5年度茨城県芸術祭」(茨城県近代美術館)9月30日㈯~10月15日㈰

「第76回岩手県芸術祭」(岩手県民会館)10月7日㈯~10日㈫に出品予定。

 


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