[画材考] 画家・詩人:大岡亜紀「見えない循環のなかで」

2024年01月05日 15:25 カテゴリ:コラム

 

よく手に取る本は書棚の1、2段目に

よく手に取る本は書棚の1、2段目に

 

 

子供の頃から、本を読むのが好きだった。

 

文字が綴られた小宇宙には、湧き上がる喜びや胸を刺す悲しみもあれば、人びとの営みがもたらした知恵や箴言もある。
内省を誘われることもままあるし、読書は私の生活に大きな比重を占めている。

 

私の個展は初回からずっと、絵とともに自作の詩を展示する形でつづけてきた。
近年は、文様や花、星などの形に仮託して、「すべての源である光」や「いのち」、あるいは「この世ならぬ空間」といった、肉眼に映らないものを描いており、詩にもその世界観を反映させている。

 

描きたいものと他者への伝わりやすさを計りつつ、構図、作品や個展のタイトル、詩の内容等で「見えないもの」をどうにか造形化しようと苦心していると、時折、身の内の乏しさによって筆が止まり、焦りが生じる。そんなとき手にするのは、やはり本である。

 

乾いた土が水を求めるように、思いつくまま書棚から取り出す。
『万葉集』に『ギリシャ神話』、『古事記』や民話、様々な詩集や随筆、画集。
本を開いて数行も読めば異なる時空へ辿りついて、身体から失われた栄養素が補給され、ようやく息をつく。

 

年月を経てなお、瑞々しい心情がそこにある。
過ぎた日に書かれた想いを、いま受け取る。
時を超えて自在に生きる言葉は、読む者それぞれによって咀嚼され、いつかまた誰かに受け渡されていくだろう。
見えない循環の存在を思う。
それは私を安堵させ、「見えないものを描く」ために
私は再び 筆をとる。

 

 

DMには絵と詩の両方を載せる

DMには絵と詩の両方を載せる

 

2020年の個展会場風景

2020年の個展会場風景

 

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web画材考・大岡亜紀 図版2 (坂場)chat noir大岡 亜紀(おおおか・あき)
画家・詩人。武蔵野美術大学日本画学科卒業。
東京を中心に個展を開催。2020年、上皇后陛下美智子様に絵画作品『耀う静寂』を献上。
詩集に『光のせせらぎ』(2010)ほか。詩画集『ことほぎのうた』(2022)。

 

【関連リンク】ホームページ「光のせせらぎ」

 


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