人の心を癒す”うるし”
11月に日本橋高島屋で2度目の個展を開催したうるし作家・黒沢理菜。
球体関節人形と漆芸を組み合わせた存在感のある作品は、工芸の枠を超えたアートとしての漆表現の可能性を切り拓いている。
漆と出会ったのは大学時代。
古い技術の保存に関心を抱いていた黒沢は、素材としての漆の高級さと希少性に魅せられる。
しかし、大学で工芸を学ぶだけでは不十分であると痛感。工房や専門施設で修行するのとは違う、自分の漆芸とは何かを突き詰めて考えた。
思い至ったのは「新しい購買層を引き込むことで、漆の文化をつないでいくこと」。
漆塗、蒔絵、螺鈿、卵殻――
伝統的な技法を駆使しつつ、黒沢は有田焼やアラビア模様、他の工芸のデザインを意図的に取り入れた作品を発表する。
漆だけど漆じゃない、観る者の意表を突く作品には漆の魅力を広く知ってほしいという思いが詰まっている。
代表作である人形のシリーズは、制作費用を捻出するためにホステスで働いていた時期に生み出された。
職場で感じた女性の生きづらさ、男性へのやり場のない憤り。こみ上げる気持ちを原動力にして人形に昇華させた。
「人形は憎しみや前向きな気持ちといった自分の感情を受け入れてくれる相棒のような存在」と黒沢は話す。
きらびやかに螺鈿された人形は女性の美しさ、格好よさを見せるがごとく誇らしげにポーズし、観る者を勇気づけてくれる。
人間として、女性として、社会に対するジェンダー的な眼差しを持ちながら、黒沢はいっそう大きな視野で制作の幅を広げようとしている。
「人間の生きづらさに対して、作品は根本的な解決にはならないかもしれないけれど、その人にとって“癒し”になるものを作りたいです」
黒沢の言葉には、漆の魅力を伝えたいというひたむきながらも強い情熱が込もっていた。
(取材:原俊介)
黒沢 理菜(Kurosawa Riina)
1992年茨城県生まれ。2016年京都市立芸術大学美術学部工芸科漆工専攻卒業、18年同大大学院美術研究科工芸専攻 修了。主な受賞歴に16年京都市次世代工芸展 (京都市美術館別館) morgenrot賞。18年京都府新鋭選抜展 アンスティチュ・フランセ関西賞・日本経済新聞関西支社賞。直近では2023年日本橋髙島屋S.C.本館6階美術画廊にて個展「黒沢理菜漆芸展」開催。
【関連リンク】黒沢理菜 X(旧Twitter)、黒沢理菜 Instagram