”堅牢な下地を、絵を、つくる”
大学2年の終わり、コンクール形式の人物画の課題で一位をとった時、吉岡正人先生からアトリエで地塗りを手伝ってほしいと頼まれた。それまで既製のキャンバスに絵具を塗ることしか知らなった金子にとってパネルも石膏地も、衝撃だった。
「画家が一つの作品にどれほど神経質に取り組んでいるのか目の当たりにして、純粋に“絵”について、もっと知りたくなったんです」。
教育関係の仕事に就く両親の影響もあり、当初画家ではなく教師を志して日芸に進んだ金子。しかしこの経験を機に、自己完結していた創作・発表への意識はがらりと変わった。
以降、古典絵画や技法の学びを深めながら二紀展に出品。素養を蓄え土台固めに専心したい想いと、結果への焦り。そのせめぎ合いは今も続く。そんな中、布を主題に、布やドレーパリー(衣文)の美しさのみを描出すべく他の要素を排した卒業制作は、今日にも繋がる試金石となった。
「僕の理想は、壁だけ描いても画面がもつこと。平面としての強さを求めた時、絵具の質感や置き方、支持体からの基礎的な成り立ちが大切です。吉岡先生は『画面から抽出した色だけで壁との距離感が分かれば本物』と仰っていて、そんな、まさかと。でも、今はそれを思考錯誤しています」。
数本のクレヨンがリズミカルに佇む《色の音階》も、二紀展で奨励賞を受賞した《曲がり角》も、傍から見ると画風は大きく異なるが、画面作りの根幹は一貫している。
「自分の素直な感動が絶対的な物差し。それは誰かに何か響くと信じて制作の骨にしています」。
火星の夕焼けは青いという。そんな星で暮らすような数百年後の人々とは価値観が違うだろう。けれど同じ人間なら、きっと通じ合う部分もある。デジタル全盛の今、だからこそ、絵として強固で確かにそこに在る油絵によって、普遍的なものを永く伝えていけたら。
(取材:秋山悠香)
金子 貴富(Kaneko Takatomi)
1994年埼玉県生まれ、2018年日本大学芸術学部美術学科卒業、20年同大学院芸術学研究科博士前期課程造形芸術専攻修了。16年より二紀展に出品、23年第76回展にて奨励賞受賞。ほか18年「第20回フィレンツェ賞展」佳作賞、20年「K写実洋画コンクール」優秀賞、21年「美術新人賞デビュー」奨励賞受賞。都内を中心にグループ展出品。現在、日本大学芸術学部助手。
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