書とは何か。究めつづける
書を本格的に始めたのは高校時代。怪我でラグビー部を辞めた時、書道教諭だった村松太子に書道部へ誘われたのが始まりだった。
綺麗に文字を書くだけではない書の奥深さ、羊毛の筆から生み出される線の多彩さに触れ、忽ち虜となる。
東京に進学したことを機に、村松の薦めもあって柿下木冠に師事したことが佐藤にとって大きな転機となった。
柿下は自ら進んで佐藤たち後進の輪に入り共に制作した。佐藤のことも弟子であると同時に、書を探求する同志として接してくれた。
隣で筆を奮う師の姿から佐藤は多くのことを学んだ。
若手書家の研究・発表の場を作るために大学時代に有志と「僕らの書展」を結成。約10年、活動を続けた。
印象に残るのは2016年のウィーン展。書に馴染みの薄い人々が会場に訪れ、佐藤たち若い書家の作品を観て言葉をかけてくれた。
異なる文化圏でも書の表象は通じる。貴重な経験を海外で得ることができた。
――過去を踏まえずして、書の未来は語れない。
書家として誰に向けて何を表現するべきなのか。
「僕らの書展」で表現し、考えてきたことは現在の書作にも繋がっている。
書を単なる文字や線と分かつ境界は何か。何をもって書は書と呼べるのか?
佐藤は文字学や言語学、メディア論にまで思索を広げ、徹底的に書の成り立ちを理解しようと研究を続ける。
「書のことを考えるときりがない。でも、徹底してそこまでのことをしなければ、書は絶対に面白くならない」
昨年、柿下が急逝して以来、書に対する想いはさらに強まった。
亡き師に捧げた最新個展では「仮現(カリノアラワレ)」をテーマに、目に見えないものの表現に重きを置く。
思い描くのは、意図や意識をこえた微妙な線の揺れが、そのまま作品になるような静かで遥かな書。
師の姿勢を受け継ぎ、常に書とは何かを問い、書く。本物を希求する佐藤の書は、長い道程の途上である。
(取材:原俊介)
佐藤 達也(Sato Tatsuya)
1990年栃木県生まれ。書家・柿下木冠に師事。2013年東京学芸大学教育学部書道専攻卒業。14年公益信託國井誠海書奨励基金(第16回誠海賞)受賞。09年より若手書家コレクティブ「僕らの書展」を結成(20年まで活動)。国内外で個展、グループ展を開催。「達也書道教室」を東京、栃木で主宰し、非常勤講師として高校でも指導する。4月24日(水)~29日(月・祝)、Gallery Concept 21(南青山)にて個展「かのように」開催予定。
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