動物を力強く、美しく
動物はかわいがるよりも遠くから眺める方が好きという。
植物と一体となって生命力を漲らせ、厳かで神秘的な存在感で佇む姿。
山羊蔵が表現する動物たちには、かわいらしさより、自然の厳しさに生きる姿に対する畏怖が感じられる。
石粉(せきふん)粘土を主に、複数の素材を組み合わせて制作している。
粘土に直に手を触れる感触が好きで、大学から10年以上陶で制作してきたが、理想の造形が大きく複雑になるにつれ、陶だけでは限界を感じるようになった。
窯で焼き上げた際にできた欠損を別の素材で補っていたことがヒントになり、異なる素材同士を組み合わせるミクストメディアの表現を始めた。
大胆で想像力豊かな表現は「野生の動物たちに理想のフォルムと創造の楽しさを投影」したもの。
作家名に用いる「山羊」には強い思い入れがある。見た目とは裏腹に、家畜のなかで最もタフと言われるところに惹かれた。
山羊はまた、表現者として殻をやぶるきっかけでもあった。
「動物造形には正解がある」と思い込み、自由な表現に及び腰だった恐怖心を打破しようと、大学の課題で思い切って山羊らしくない山羊を提出した。「全然本物と違う!……けど面白い」。
その言葉が自信となった。
大学院修了後、1年ほどかけ素材の研究に没頭。試行錯誤の末、現在の制作手法に至った。
モチーフにふさわしい素材は何か、一つ一つの素材と対話しながら考える。陶芸で培った色彩や感覚も活かされている。
ラフォーレ原宿の個展では今までで一番大きな作品を発表。《喬松の山羊》は理想的なフォルムを動物に託す山羊蔵の意思の表れだ。
「工芸から出発した者として、立体としての空間・素材感・造形にはこだわりたいです」
何より観る人を楽しませる作品をと笑顔を見せる。理想の造形へ。想像力は膨らむばかりだ。
(取材:原俊介)
山羊蔵(Yagigura)
1989年東京都生まれ。2013年女子美術大学芸術学部工芸学科(陶)卒業、15年同大大学院博士前期課程工芸研究領域(陶)修了。16年に《五代目》が佐久市立近代美術館に収蔵。18年より「山羊蔵」名義で活動を始める。ギャラリーなつか、蔦屋書店(銀座/京都)、NGGギャラリーなどで個展開催。現在ラフォーレ原宿内「愛と狂気のマーケット」にて「山羊蔵展」開催中(5月31日まで)
【関連リンク】山羊蔵 公式ホームページ