生を肯う陶芸
「あの時は死ぬのが怖くてしょうがなかった」
大学2年の春休み、仙台へ帰省中に遭遇した東日本大震災の記憶を、氏家昂大はそう振り返る。
生命感溢れる陶芸で国内外の注目を浴びる陶芸作家の転機は未曽有の震災だった。
太平洋沿岸を襲った津波、福島第一原発事故。 流れてくる情報に茫然としながら、被災地の真っただ中で、強く死を意識していた。
どうして死ぬのが怖いんだろう?
そう自問し続けた末に、一つの答えに至った。
「『それは今まで自分が一生懸命生きてこなかったからじゃないか? だから、明日死ぬことがあっても、思い残すことがないように生きよう』とその時決心しました」
大学に戻ると心機一転、陶芸に打ち込んだ。
大学図書館で書籍を読み漁り、陶の名品を研究し審美眼を磨いた。
実作でも従来の表現に飽き足らず、伝統を踏まえた新しい陶芸を志す。
伝統的な造形と現代の感性を織り交ぜた作風を追究。
そして卒業制作では、釉薬で鮮かな色遣いを施し、貫入のひびに朱漆を流し込む“漆貫入彩”の技法を考案。血の通った新しい陶芸を生み出した。
身体に抱える異物感も作品のモチーフだ。
生まれつき欠けていた左耳を肋骨の一部で成形したことで、異物がくっついたような感覚が付きまとっていた。
その異物感を生命のあり方として受け入れ、独自の造形に昇華した。
近年は生命をもっと大きな視野で捉えるようになったと氏家は話す。
「昨年のNYの個展後に自律神経の乱れで体調を崩したときに、そもそも生命に完璧はないと思うようになりました。誰しもが病気と隣り合わせ。身体の不完全さは自分だけの問題ではなく、普遍的なもの」
生命そのものに“不完全の美”を見ることが生の肯定である。
伝統を引き受けながら、未来の陶芸を見据える姿がそこにあった。
(取材:原俊介)
氏家昂大(Ujiie Kodai)
1990年宮城県生まれ。2013年東北芸術工科大学芸術学部美術科工芸コース卒業、15年同大大学院芸術文化専攻工芸研究領域修了。現在は岐阜県多治見市に工房を構える。B-OWND Gallery、Ippodo Gallery New Yorkなどで個展多数。直近の発表にパラミタミュージアム「第18回パラミタ陶芸大賞展」(会期:6月7日㈮~7月29日㈪)、天王洲・WHATCAFE「Beautility:The betweenness of Kogei」(会期:6月27日㈭~7月7日㈰)。
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