[フェイス21世紀]:松平 莉奈〈画家〉

2024年07月24日 12:00 カテゴリ:コラム

 

”他者について想像する”

 

《私たちはここで》 53.0×72.7cm 紙本着色

《私たちはここで》2024年 53.0×72.7cm 紙本着色
「竹林などに仙人たちが集まっている山水画が特に好きで。仙人は基本単独行動のはず。たまに会って、再会を喜び、またねと別れる……そんなシーンだと想像したら、あ、分かる、描けるぞと」。ただ、仙人は自身から遠い存在。そこで、自身がいて座であることを起点に、ケンタウロスをモチーフとした。

 

 

京都を拠点とする気鋭画家・松平莉奈の百貨店初個展が髙島屋京都、横浜、日本橋と巡回する。山水画への関心から展開した絵画に粘土模写も交えた意欲作約50点が並ぶ。

 

元々油画志望だったが「日本画やなぁ」、画塾で先生が後ろを通るたびに呟く。そこで油絵を描かせてもらうと、にわかに油絵具が苦手だと自覚した。また、2005年5月の『美術手帖』「『日本画』ってなんだろう?」で特集された現代の解釈による日本画に、何か物足りなさを覚えたことも大きい。
「だからこそ日本画に挑戦したい、自分事として深堀りしがいのある分野だと感じました」。

 

«venus kiss» 2023年 130.3×162cm パネル、麻紙、膠、顔料 大学院では故小池一範に師事。その教えで最も制作と結びついているのは、人物を描く時、背景と均しく描くこと。人の姿を図、背景を地だとすると、同じだけの量感をもたせて図が浮かないように、という意図だと解釈した。「ある人の肖像画を描いた時、セーターの網目を描いていくうち、顔や手より網目の方がその人をより表しているし近づけた実感があったんです。紐を編む・結ぶ・解く行為は人間だけができる人的なモチーフだと思い、そこから人物と周囲に紐を張り巡らせるような作品が生まれました。それが人と人以外を等価にすることの、自分なりの答えの出し方でした」。

《venus kiss》2023年 130.3×162cm パネル、麻紙、膠、顔料
大学院で師事した故小池一範の教えの中で、特に制作と結びついているのは、人物を描く時、背景と均しく描くこと。人の姿を図、背景を地だとすると、同じ量感をもたせて図を浮かないようにするためだと解釈した。「ある人の肖像画を描いた時、セーターの網目を描いていくうち、顔や手よりも網目の方がその人をより表していて、近づけた実感があったんです。紐を編む・結ぶ・解く行為は人間だけができる人的なモチーフだと思い、人物の周囲に紐を張り巡らせる作品が生まれました。それが人と人以外を等価にすることの、自分なりの答えの出し方でした」。

 

 

作品の主なモチーフは当初から“人物”であり、“他者について想像すること”が創作の核にある。

 

「学部時代、デッサンの課題で休憩時間にモデルさんと好きな本やペットの話をすると、相手のそういうところを思いながら描いてしまう。でもそれは課題に不要で、相手について想像すること、相手との距離が重んじられないことがずっと引っかかっていて。“人体”でなく“人物”をやりたいなと」。

 

目の前の相手でも歴史上・空想上の人物でも、徹底したリサーチを重ね、想像の及ぶところ/及ばぬところに思惑を巡らせ筆を執る。古典籍を引用することも多く、コロナ禍では絵手本のデジタルアーカイブを模写する試みにも挑んだ。

 

《『尋常小学図画 第四学年児童用』 第十図 朝顔/『初等図画 第四学年児童用』 第九図 朝顔》 2024年 9×14cm ユポ紙、レーザープリント、アクリルほか

《『尋常小学図画 第四学年児童用』 第十図 朝顔/『初等図画 第四学年児童用』 第九図 朝顔》2024年 9×14cm ユポ紙、レーザープリント、アクリルほか
コロナ禍で教育へのアクセス手段が減った際、かつては遠隔で、本に描かれた外国の文物や有名な絵画を見て勉強していた層がいたことに思い至った。ちょうどデジタルアーカイブがオープンの公開が盛んになっていた時期とも重なって「デジタルアーカイブ模写」を提案、実践した。本作は、4年後にそのことをふりかえり、反省も含めて制作した作品。

 

 

「ある種の反発心を持って大学に進みましたが、いざ日本画を勉強すると、これは大変な世界だぞと(笑)。古典だけでなく平成の作品までも含めて、先人たちの仕事の重みがようやく分かるようになり、同時に、自分のほしい美術はやはり自分でつくっていかなければと改めて感じています」。

 

これまでは展示機会ごとに絵のスタイルに幅を持たせてきたが、今後は独自性や造形力を高めることが課題。そして、日本画の領域に収まらず発表の場をより広く、海外も視野に、と展望を語る。更なる飛躍を前に、まずは最新個展で己の現在地を示す。

(取材:秋山悠香)

 

(左)《花輪》 162.3×162.3cm 紙本着色(右)《怖くない天使》 39.4×27.9 cm 坂本直昭 染描紙に着色 「友人と、日本はカウンセリングがあまり発達していない、男性同士は特に、という話になり、健康診断で体のケアはするのに心は?と疑問をもちました」。男性が慰めたり励まし合ったりするさまを、”天使”ならば描けるかも――そこから派生したため、作中の天使は性別が分からないようになっている。

(左)《花輪》2024年 162.3×162.3cm 紙本着色  (右)《怖くない天使》2024年 39.4×27.9 cm 坂本直昭 染描紙に着色
「友人と、日本はカウンセリングを受ける文化があまり発達していない、男性は特に、という話になり、健康診断で体のケアはするのに、心は?と疑問をもちました」。今回の個展に先立ち《ひげの天使》という作品もあり、男性に見える人たちが一緒にいたり励ましあったりするさまを、”天使”ならば描けるかも――そこから、今展のテーマの一つとなった。

 

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松平 莉奈(Matsudaira Rina)
プロフィール写真web
1989年兵庫県生まれ、2014年京都市立芸術大学大学院修了。11年臥龍桜日本画大賞展大賞、15年VOCA展佳作賞、16年続京都日本画新展優秀賞、17年京都市芸術新人賞、20年京都府文化賞奨励賞受賞。京都・東京を中心に個展、グループ展多数。岐阜県高山市、京都市京セラ美術館に作品収蔵。
個展「天使・花輪・ケンタウロス」が7月3日(水)~8月(月)髙島屋京都店を皮切りに7月24日(水)~29日(月)髙島屋横浜店、10月30日(水)~11月4日(月・休)髙島屋日本橋店巡回予定。

 

【関連リンク】松平莉奈

 


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