”人と分かち合える絵を”
個展やグループ展での発表に留まらず、数多くの企業とのコラボレーションを展開するなど、日本画家の枠を超えて多方面に活躍する丁子紅子。
骨董屋を営んでいた祖父の影響で、幼い頃から掛け軸や着物など日本文化に興味を抱くようになった。
日本画は高校時代から学び始め、友禅と迷った末に大学では日本画を専攻。天然の岩絵具に触れるにつれ、その輝きと美しさに魅了された。
心のかたちをテーマに、大学3年から人物画を描くようになる。
当時は自分の心情を投影した暗い作品が多かったという。
画風が変わるきっかけになったのは卒業後。
ジュエリー会社に就職し、多くの人と仕事をするなかで、絵画に対する考えが大きく変わったという。
「オーダーメイドでお客様が欲しいジュエリーを作る仕事をしていると、絵でも観る側に良い気分になってもらわないといけない、と考えるようになりました。独りよがりでない、観る人と分かち合える絵を描きたい」
観る人が自由に絵の世界に入っていける“隙間”を丁子は大切にする。
制作中は自分の感情をなるべく絵に込め過ぎないよう、モデルには表情をつけず、配色も限られたものしか使わない。
「私が描いているのは、何かある感情に至る瞬間。無表情は観る人によって印象が変わる。全然違う感想が返ってくるのが面白く、そこにこそ絵の意味があるんだと思っています」
所属する現代童画会の活動にも力を入れる。幼い頃から親しんできた現代童画展には14年連続で出品。現在は運営にも携わる。
「大好きな会だから、もっといろんな人に見てほしい。私が積極的に発表を続けることで、会の存在も知ってもらいたい」
多方面にわたる精力的な活動の根底にあるのは日本画の魅力を、ひいては絵そのものの楽しさを広めたいという率直な思い。
クールな画風の裏には、熱い気持ちがあった。
(取材:原俊介)
丁子紅子(Choji Beniko)
1991年埼玉県生まれ。2023年女子美術大学絵画学科日本画専攻卒業。19年「第45回記念現代童画展」現代童画大賞。百貨店、ギャラリー中心に個展、グループ展多数。そのほか装丁、アートワーク、アパレルや眼鏡ブランドとのコラボレーションなど幅広い活動を行う。現在、現代童画会委員。11月10日㈰~16日㈯「第50回記念現代童画展」(東京都美術館)に出品予定。
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