[フェイス21世紀]:中西優多朗〈洋画家〉

2024年12月26日 10:00 カテゴリ:コラム

 

”〈日本的な写実表現〉追求”

 

自宅兼アトリエにて

自宅兼アトリエにて

 

第3回ホキ美術館大賞を受賞して以来、写実画家として実績を重ねる画家・中西優多朗。

 

一貫した信条は「対象から受けた感動をそのまま絵に表現すること」。
幼少期からそこには強いこだわりがあり、小学校の図工の授業で近所の神社を描く際、自分の感じたままを表現したくて描きあぐねたエピソードは中西らしい。

 

《富士朝霧》 2022年 72.7×90.9㎝ 油彩、キャンバス 静岡銀行シンガポール支店蔵

《富士朝霧》 2022年 72.7×90.9㎝ 油彩、キャンバス 静岡銀行シンガポール支店蔵               幼少期は家族旅行で北海道やイギリス、カナダなど国内外の景勝地を巡り、自然の織り成す絶景を目にしてきた。子どもながらに富士山を見た時の感動は忘れられない。中西が感じ取る豊かな”印象”は、このような体験から育まれた。

 

画家として踏み出す機縁は、高校時代、写実絵画の殿堂「ホキ美術館大賞」の存在を知ったこと。
別の公募に出すはずだった風景画を出品すると入選。入選作品展を観に訪れたホキ美術館で、現代の写実絵画の世界に出会った衝撃が、中西の行く道を決定づけた。

 

「ホキ美術館の作品は、油彩の可能性を広げてくれました。漠然と自分の中にあった枠組みが一気に破れたんです」

 

その体験を糧に、在学中、西洋古典絵画の研究に没頭。その成果として、高校卒業間近に同級生をモデルに描いた肖像画が、第3回ホキ美術館大賞作となった。

 

《次の音》 2019年 162.1×162.1㎝ 油彩・キャンバス 「第3回ホキ美術館大賞」大賞

《次の音》 2019年 162.1×162.1㎝ 油彩・キャンバス 「第3回ホキ美術館大賞」大賞

 

受賞を機に国外の公募展に展示の機会を得るなかで、スペインやアメリカの現代リアリズム絵画を目にする経験ができたことは、自らの目指す表現の自覚に繋がった。

 

「西洋の写実が描き出しているリアリティと、僕が感じているそれとの間に違いがあるとわかりました。日本画ややまと絵のようなリアリティに、僕は惹かれているんだと実感しました」

 

近作は写実をもとにしながらも、装飾性と平面性の際立つ画風に個性を見せる。写実を越え、対象から受けた中西の印象を表現すること。それはつまり、油彩によって〈日本的写実表現〉を実現することでもある。

 

上:《寒椿》 2024年 33.3×53.0㎝ 油彩、キャンバス 下:《八重桜》 2024年  33.3×53.0㎝ 油彩、キャンバス 中西にとって「写実」そのものはそれほど重要なことではないという。写実絵画に足を踏み入れる前は漫画家を目指していたこともあり、イラストがコンクールに入選したこともある。どちらにおいても、自分が抱いた印象を絵に伝える、という点は変わらないのである。

上:《寒椿》 2024年 33.3×53.0㎝ 油彩、キャンバス
下:《八重桜》 2024年  33.3×53.0㎝ 油彩、キャンバス
中西にとって「写実」そのものはそれほど重要なことではないという。写実絵画に足を踏み入れる前は漫画家を目指していたこともあり、描いた漫画がコンクールで入選したこともある。どちらにおいても、自分が抱いた印象を絵に伝える、という点は変わらないのである。

 

「西洋とは異なる見え方を大事に、日本の画家である僕自身が受け取った印象をどう表現すればいいか、挑戦を続けたい」

 

その印象が誰かの感動を呼んでくれればいい。そう微笑む中西はいままさに、新しい写実に向かってひた走っている。

(取材:原俊介)

 

 

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中西優多朗(Nakanishi Yutaro)

2000年京都府生まれ。16年京都市立銅駝美術工芸高等学校在学時に「第2回ホキ美術館大賞」に入選。19年「第6回青木繁記念大賞ビエンナーレ」奨励賞、「第3回ホキ美術館大賞」大賞。21年初個展「流転する存在」をギャラリー月の庭(京都)で開催。22年京都市立芸術大学美術学部美術科油画専攻卒業。21年「ARC Salon Exhibition 2021」(サザビーズ NY・ヨーロッパ近代美術館)、23年「第11回前田寛治大賞展」(倉吉博物館)など出品多数。

 

【関連リンク】中西優多朗 公式インスタグラム


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