街に息づく生活 目で追い、描く
《キリン28号》 2021年 56.0×54.2㎝
高層ビルが立ち並ぶ都市や工場地帯。
村山春菜が描くのはビルや機械が織りなす街の情景だ。しかしただの風景画とは違う。
画面から溢れ出しそうなほど細密に描かれた作品には、うごめくような生命感が宿る。
全体より部分にこだわる性格だった。
細部を執拗に描き込むあまり、全体のバランスがおろそかになる。
絵画教室ではよく注意されたが、描き方が日本画のよう、と先生に指摘されたことが日本画との出会いとなった。
《春日(はるひ)》 2019年 80㎝×91㎝ 「日本画からNIHONGAへ ~安芸の詩~」出品 デッサンは現地に赴き、時に数日をかけて全体を事細かに描写する。線を転写する工程まで1カ月を要することもあるという。「部分部分、楽しいところや面白いところを目で追って描いてます」。細部へのこだわりは、こうして作品に結実する。
本格的に日本画を学び始めたのは大学から。当初は勉強に身が入らなかった。
「当時主流のぼかした描き方が肌に合わず、教室に足が向きにくい時期もありました」
留年しそうになり、このままではいけないと発奮。3・4回生で単位を一気に取得し、毎日最終のバスまで制作をし、大学院へ進む。
自分は何を描けばいいか、それを掴もうとがむしゃらに描いていた。
大学院も終わりに近づいた夏、自作が入選した上野の森美術館大賞展を観るついでに、六本木ヒルズの展望台に上った。
俯瞰した東京の街並みに、目をみはった。
無数の人々や多彩な車が複雑に連動している。
「街が動いている!」と感じた。
今、この街でたくさんの人々が今を生きているという実感。その感動を表現しようと、ひと夏かけて試行錯誤。
左手でデッサンを取ったところ、活き活きした動きのある線を描けた。線の勢いを削がぬよう、拡大コピーし本画に転写。
そうして描き上げた作品が、村山の現在を決定づけることとなった。
《東京ドリーム》 2019年 32×53㎝ 作品によっては岩絵の具のほか、ラメやホログラムなどを画材として取り入れることも。初めはためらいもあったが、相談した先生から「逆に何でしたら駄目なの?」と問い返されて踏ん切りがついた。「日本画の固定観念の皮を一つ一つ剥いていって、こんな気持ちいい世界があるんだ! と思えた瞬間はとても楽しいです」と村山。
無数の人々が暮らす街の息づかいを直接絵で再現する。村山の絵の奥底には、見落とされがちな細部へのこよなき愛情がこもる。
「身近な感動を描くことは、慌ただしい世の中だからこそ、必要なんじゃないか。それを自分の作品で伝えたい」
今を生きる人々への共感を胸に、村山の目は蠢動する現代の情景を夢中になって追い続けている。
《ふじのくに》 2024年 86.6×145㎝ 昨年11月の上野松坂屋の個展で発表した作品。「先日、私が小学校2年生のときに『大きくなったらえかきさんになってふじさんをかきたい』と書いたアルバムを見つけました。何十年越しに夢を叶えました(笑)」。伝統的な画題である富士山を取り上げながら、古典へのリスペクトとともに、令和の日本画を描こうとする気概溢れる一作。
村山春菜(Murayama Haruna)
1985年大阪府生まれ。2007年京都市立芸術大学美術学部日本画専攻卒業。09年同大大学院美術研究科絵画専攻日本画領域修了。同年、日影圭氏に師事。10年に京都・同時代ギャラリーで初個展。以降、全国で個展・グループ展多数。主な受賞歴として日展特選(09、21年)、京都府文化賞奨励賞・京都市芸術新人賞(23年)、第9回東山魁夷記念日経日本画大賞展大賞(24年)など。
大丸心斎橋店 Artglorieux GALLERY OF OSAKA で5月14日~20日に個展開催予定。
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