[通信アジア] 森美術館10周年を迎えて : 南條史生

2014年02月25日 11:53 カテゴリ:エッセイ

 

 

森美術館10周年を迎えて

南條史生(森美術館館長)

 

森美術館は、今年(※編集部注:2013年)で10周年を迎える。開館(2003年)の一年前にデヴィッド・エリオットが館長となったが、その直後に私も副館長として設立に参加した。当時のエピソードは様々あるが、ここで、詳細を書く余裕はない。

 

「ハピネス展」で開館した後、40(六本木クロッシング2013展を含めて)の展覧会を開催し多数のパブリックプログラムを実施してきた。その間にシステムやインフラは様々な変更と改良を経て、現在の運営方法に収斂している。

 

10年間の活動の特徴を挙げてみよう。一つは外国人の観客がアクセスしやすいように、つねに全ての掲示、カタログ、案内資料がバイリンガルで出来ていること。また、いったん展覧会がオープンすると、閉館日なしに毎日夜の10時まで営業(火曜日のみ午後5時まで)していて、それが六本木の新しいライフスタイルを可能にした点。展覧会プログラムは内外の作家の個展、あるコンセプトに基づいて作るテーマ展、ある地域・国の現代美術を総合的に紹介する地域展、建築やデザインなどの他ジャンルの展覧会、そして、日本の現代美術を紹介する3年に一度のサーベイ展など、いくつかのタイプの展覧会が一定のリズムで循環している。

 

そして時には物議を醸すようなリスクを持った展覧会も、民間の美術館だからできるという自負をもって、あえて挑戦してきた。また、活動も自分の館内にとどまることなく、海外に展覧会を巡回し、また開発事業の中でパブリックアートの設置を指導し、毎春開催される六本木アートナイトを立ち上げた。以上のような特徴が、結果的には美術館と社会をつなぎ、街づくりにも貢献してきたと思う。

 

私はその間、美術館とは何かを考えてきた。欧米で誕生し、発展してきた美術館という制度の定義とルールというものは果たして今日どのような意味があるのだろうか、と。別の言い方をすれば、それは21世紀のアジアの極東の大都市東京で、一体どのような美術館が最もリアリティーを持つのか、と問うことでもある。そして、欧米の創り出したルールの優等生になるのでなく、創造的で新しい美術館像を提示することこそが、一番重要なのではないかと思うようになった。その時に始めて、欧米の先進的な美術館からも敬意をもたれるのではないだろうか。

 

またアカデミックで、ハイブロウな展覧会と、一般の人たちに人気のあるポピュラーな展覧会の対立についても、美術の専門家であるならば常にその両者の間にある狭く細い道を歩むべきではないかと思うに至った。

 

「六本木クロッシング2013展:アウト・オブ・ダウト」展示風景、森美術館 撮影:渡邉修 写真提供:森美術館

「六本木クロッシング2013展:アウト・オブ・ダウト」展示風景、森美術館 撮影:渡邉修 写真提供:森美術館

 

さて、10周年の展覧会としては、まず4月に「LOVE展」(4/26~9/1)を開催した。内容はサブタイトルにあったように、シャガール、草間彌生、初音ミクはもとより、浮世絵や源氏物語絵巻、ジェフ・クーンズなどまで、ジャンルや時代にとらわれずに、愛に関わる作品を縦横に渉猟し、ギャラリー一杯に多様な作品を展示するものとなった。これは10年前の開館記念展だったハピネスを引き継ぎつつ、より多くの現代作品を包含したものとなった。

 

春の祭典のようなこの展覧会の後、10周年記念企画として、日本の現代美術を真摯に紹介する「六本木クロッシング2013展」(9/21~2014/1/13)を開催した。この展覧会はこれまでの価値観やモラルに疑念を投げかける意味を持ち、またキュレーターに二人の外人を迎え、アーティストにも海外在住者を多く起用し、日本の現代美術のアイデンティティーとは何かを問いかけることになった。そしてこの後、14年春には、「アンディ・ウォーホル展」を開催予定である。

 

10月には49階のアカデミーヒルズと森記念財団が共催、世界経済フォーラムが協力し、「イノベーティブ・シティ・フォーラム」という三日間の国際シンポジウムも開催(10月16日~18日)した。調査によると20年後に人類の60%は大都市に住むという予測結果がある。そのような予測の前で、いまこそ都市デザイン、技術革新、そしてアートを含む創造産業という異なったジャンルの関係者を集めて話し合い、未来の都市と人々のライフスタイルをデザインするプラットフォームを作ろうという狙いである。私はこのフォーラムをクリエイティブ・ダヴォスと通称したい。

 

さらに10月18日にはファンドレイジングをかねた10周年のガラディナーを開催し、日本人作家のオークションも開催した。また国際アドバイザーになってもらっているMoMAの館長やテートの館長などの参加を得て諮問委員会も開催した。

 

こうして、10周年の展覧会、多様な議論、先鋭な問いかけなどの一連のイベントをもって、2013年の10周年の区切りとした。

 

10周年以後の森美術館は、より自由闊達に独自の企画を展開し、美術館の新しい定義につながるような活動が展開できたら良いと思っている。そして今まで以上に国際性、同時代性、そして先進性をもった美術館に成長させたい。

 

「新美術新聞」2013年10月21日号(第1326号)3面より

 


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