理系女子の台頭、文化を超えるデザイン ―黒田雷児
5回目に福岡アジア美術トリエンナーレ(以下FT)が開会した。21か国・地域から選ばれた36作家のうち20人が映像を使い、インスタレーションや立体もあるが、絵画や写真を含めて平面作品が多い。国際展としてはFTは横浜やあいちのトリエンナーレと比べると小ぶりだが、高度に凝縮された内容は相当にディープ・インパクトを与えるだろう。
今回のテーマは「未来世界のパノラマ~ほころぶ時代のなかへ」。このテーマも作家の選考も、アジ美および外部の数人のキュレーターらの調査と意見を集約していくFTの伝統?といえる集団的キュレーションの結果である。ほかFT特有の選考基準としては、過去のFTでもアジ美の企画展でもコレクションでも見たことのないタイプの作品を制作する作家で、かつ「21か国・地域から最低1人」を選ぶこと、つまり各地域のローカル基準での最新傾向を選んでいる。今回初めて日本人作家は福岡在住作家・プロジェクトに限ったのもこのようなローカリズムの必然である。
映像作品が多くなったのは、各地の美術に飽和状況があっても(それは「大国」と「小国」両方に起こりうる)、映像技術・文化の普及力が視覚文化に与えた影響のほうが目に見えやすいからである。アニメ・マンガ世代が多くなるのも世界的な傾向であろうが、今回注目したいのは、第一に、ぶっとんだ発想の「理系女子」作家。日本のアニメのスタイルを使いながらもすさまじいイメージの奔流で生物としての人間と科学技術の接点を過激に(しかし哄笑を伴って)追求するルー・ヤン(中国)、科学とB級SFと秘教としょぼい日常生活を往還するメヘリーン・ムルタザ(パキスタン)が筆頭にあげられる。第二に、ビジュアル・デザインのパワー。国際的に活躍するシンガポールのアート&デザイン集団PHUNKは、泥臭い「アジア」のイメージを払拭するクールなアジアの視覚文化の先端を突っ走る。チープな韓国素材を使う御大チェ・ジョンファ(韓国)、キャラクターの色から同心円の絵画を制作するチェン・イージエ(台湾)は、一見無意味なデザインであるがゆえに文化の境界を超える挑戦となる。
メイン展示以外の目玉は特別部門「モンゴル画の新時代」である。西洋絵画の移入以前から描かれたモンゴル伝統絵画が都市化と若い感性で劇的に変容しつつある近年の動きを世界で初めてまとめて紹介する。モンゴルといえば遊牧と相撲くらいしか知らない日本人には新鮮な衝撃を与えるだろうし、国際展でありふれた「現代アート」概念を揺さぶるのもまたアジ美の得意技である。
展示内容とは別に今回力を入れたのは同時期の国際展との連携である。ヨコハマトリエンナーレでは森村泰昌の設定したテーマに合う作品を、過去のFT出品作家のアジ美所蔵品およびFT5のキリ・ダレナ作品から選んだ。釜山でのビエンナーレには、FTの観覧券半券で無料入場でき、釜山ビエンナーレ半券でFTに無料入場できる。わずか3時間のフェリーで行けてしまう都市間だからこそ成立する広報・集客での協力である。それに加えて若者層にターゲットをしぼった広報により、「アジア」の先入観を爽快に裏切ってくれる作品群に多くの人が会いに来てくれることを望む。
(福岡アジア美術館事業管理部長・学芸課長/FT5芸術監督)
【会期】 2014年9月6日(土)~11月30日(日)
【会場】 福岡アジア美術館(福岡市博多区下川端町3-1
リバレインセンタービル7・8F)
☎092―263―1100 ほか周辺地域
【休場】 水曜日
【開場時間】 10:00~20:00
【料金】 〈ワンデーパス〉 一般1,500円 高大生1,000円 中学生以下無料
※フリーパスは各プラス500円
【関連リンク】 第5回福岡アジア美術トリエンナーレ2014