安部雅延 [PARIS 発] :賛否両論のクーンズ

2015年03月15日 10:00 カテゴリ:エッセイ

 

― 賛否両論のクーンズ ―

 

 

1970年代のポップアートは、世界を席巻するアメリカの大衆文化を背景に世界中に大きなインパクトを与えた。資本主義社会において逃れようのないコマーシャリズム、大量消費をもたらす大量生産の社会環境を現代美術は先取りしていた。

 

そして、80年代にポスト・ポップとかネオ・ポップとジャンル付けされたのがアメリカの作家、ジェフ・クーンズだった。クーンズ自身は批評家たちの位置づけに大いに反発しているが、21世紀になってみれば、彼が批評家たちの評価に違和感を持つのも無理はないと見えてくるから不思議である。

 

パリのポンピドゥー・センターでは、今や21世紀を代表するポップアーティストの一人と言われるジェフ・クーンズの大回顧展(4月27日まで)が開催されている。昨年はパリのグラン・パレ・ナショナル・ギャラリーで「動物の美 デューラーからジェフ・クーンズまで」展が開催され、クーンズの作品が展示された。

 

ウサギや猫、風船など、大衆的なモティーフを極端に拡大し、巨大な彫刻とする一連の手法で、クーンズの登場は80年代の停滞していたアート界に刺激を与えた。次々に発表される巨大作品はスキャンダラスで賛否両論を巻き起こした。

 

21世紀の現代美術の動きを見る時、70年代のアイロニックな意味が込められた作品よりも、80年代に登場したクーンズやダミアン・ハーストの影響の方が遥かに大きいことが見て取れる。考えてみれば70年代までは20世紀の2つの大戦の傷跡が癒えず、その痛みを伴った芸術作品が多かったが、80年代にはそれはなくなっていた。

 

少年時代にダリを崇拝していたというクーンズは、シカゴやメリーランドの美術学校で学んだ後、ウォールストリートでブローカーとして働いていたという。80年代に入り、美術家として認められ、イタリア・ルネッサンス期のような工房スタイルで多くのスタッフに仕事を割り振って巨大な抽象彫刻作品を作り続けた。

 

その一方で興味深いのは、彼がイメージ・コンサルタントを雇って自分のイメージを社会に構築していったことだ。悪く言えば、大衆芸能のポップミュージシャンが人気集めのためにイメージづくりをしたわけだが、それこそ彼自身の商品化を行う行為でもあった。

 

今では日本の作家の中にも、そのようなイメージ戦略を持って世間にアプローチするケースも出てきているが、当時は非常に新しかった。黙々と作品を制作し、評価してくれる評論家や美術愛好家を徐々に増やしていくのではなく、コマーシャリズム、ジャーナリズムを最大限活用して世の中に積極的にアプローチする手法だった。

 

クーンズ自身は、ダリのように生まれついての芸術家か奇人のような風貌ではなく、サラリーマン風なのだが、それと彼のセンセーショナルな作品群のギャップがなんとも言えない。ただ、彼のいたずら好きの大人子供的アメリカ人ならではのアプローチが笑いも誘うが、芸術的価値を論じるには賛否両論あって当然とも言えそうだ。

 

(安部雅延・レンヌ上級商科大学常任講師/在パリ)

 

【関連リンク】Le Centre Pompidou

 


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