桜井 武(熊本市現代美術館館長):「平成28年 熊本地震」被災状況等について

2016年05月30日 10:00 カテゴリ:エッセイ

 

 

今回の地震発生時に熊本市現代美術館(2004年開館)では「だまし絵王エッシャーの挑戦状」が開催されていた。これはオランダの画家M・C・エッシャーと近・現代の内外アーティストによる展覧会であり、初日から多くの観客が詰めかけ、好調に滑り出していた。しかし開催一週間たらずで大地震に見舞われ、展覧会は中断。館が入っているビル全体の修理が必要となり、一時閉館を余儀なくされた。

 

この地震は2度とも夜間の閉館時に発生し、したがって観客の避難誘導等の必要性はなかった。館内の被害状況は、メインの企画展示室において展示用大型移動壁の多くが動き、固定壁をつなぐ壁紙が裂けた。また細かな器具や部品が飛散し、天井からの細かな落下物が多く、床は埃で白く覆われていたが、幸い移動壁がレールから外れたり、倒れたりはしなかった。この展覧会では、エッシャー、ダリ、草間弥生、福田繁雄等の展示作品は、数点が落下したが損傷はなく、概ね無事であった。壁にかかった作品は、本震後、まず床に降ろし平置きにした。その後、コンディションチェックを行いながら梱包し、全ての作品をより安全な収蔵庫前室と一時保管庫に固定した。

 

危機感に襲われたのは、16日の本震で空調機が損壊し、展示室と収蔵庫の温度・湿度のコントロールが困難になった時である。外気を取り入れたり様々な工夫を凝らし、人為的に温度、湿度を極力抑える工夫をした。そして、25日になって空調機はほぼ復旧した。

 

作品収蔵庫内は、壁に立てかけていた梱包されたままの所蔵作品が重なったまま崩れかけている。またいくつかの絵画ラックが動いていた。こちらの点検と整理には多くの人手が要り、今後の作業となる。

 

市民が集うホームギャラリーでは、天井に設置してあるジェームス・タレルの作品は無事であったが、天井そのものに亀裂が生じていた。ここは観客がまず訪れる所であるので、緊急工事を行い、施設の安全確保が確認できた後、5月11日にホームギャラリー、フリースペース、ショップ、子供広場等、部分開館が可能となった。

 

そして5月18日、整備が終了し、より安全な2つの小ギャラリーを使用して、新たなバージョンのエッシャー展を無料で開催することに漕ぎ着けた。内容は、エッシャーの真髄を示す選りすぐりの作品42点で構成されている。エッシャー展再開を望む市民の声に応える形で、この特別展示は実現したのである。

 

熊本市中心部には現代美術館のほか、熊本城を前にして県立美術館と県の伝統工芸館がある。工芸館では陶芸品等小さな作品が数多く破損したようであるが、驚異的に5月3日には全館開館した。一方、重文や国宝を所蔵する県立美術館の被害は甚大で、1億円を超える修復、補修費用がかかるとみられている。県立美術館は、5月28日には新しい企画展で再開される。

 

熊本地震被災の厳しい状況の中で熊本市現代美術館は、近隣の美術館と共にアートのあるくつろぎの場となり、その多様な活動によって街なかに賑わいを添え、復興の道筋の一助となることを願っている。

(熊本市現代美術館 館長)

 

 

【名称】だまし絵王 エッシャーの挑戦状-ダリ、マグリット、福田繁雄から現代のイリュージョニストまで-

【会期】2016年5月18日(水)~6月12日(日)

【会場】熊本市現代美術館(熊本市中央区上通町2番3号)

【TEL】096-278-7500

【休館】火曜

【料金】無料

【関連リンク】熊本市現代美術館

 


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